第11話 こんなことはありえん!
「ハックシュン……あー」
レインは初めて秘境の森から出たのか環境に合わず鼻をすすった。
「花粉症かな……ハックシュン!」
彼女らが廃遺跡に突入して30分は経過しただろう。変な音に怯えつつもレインは彼女たちの帰りを待った。
なにも起こらなければ良いと願っていた彼だが不幸にも地面が揺れるような感覚に襲われる。
「下……? もしかしてみんな戦ってるのかな? 野生動物とかいそうだもんね……」
野生動物くらいなら大丈夫かと自分を安心させる。しかし次の瞬間、彼の目の前に激しく光る物体が現れる。光が薄くなってくると中からは人が現れた。
「あの人数はさすがに相手にできませんよ……」
レインはいきなり目の前に現れた男を強く警戒する。
そして男もレインに気がついたのかビクッと体を震わせ警戒する。
「あれだけの人数がいたら当然見張りもいるということですね」
見た限りだと1人しかいない。それに周囲に戦闘した形跡もないため騎士は誰も脱出できなかったと考える。
「逃げ出せたのは私だけということですか」
メクラームの目の前にいるローブの人は震えていた。口元しか見えず表情の全てを視認できなかったが彼が怯えていることぐらいは感じ取れた。
逃げるられることを想定してなかった結果、弱い見張りを置いてしまったんだと……メクラームはそう考察する。
弱いと判断したのは下にいた少女らと比べると目視で確認できる魔力量が少なかったからだ。
目の前のローブの人間は全く魔力を放出していない。質も弱く、魔力もさほど多くはないと判断したのだろう。
おまけに身にまとっているローブが大きめで動きにくそうだった。
「1人ぐらいなら始末することは容易いです」
弱いと確信したメクラームは口端を吊り上げ何かを唱える。
「──ボルケーノ」
ローブの足元が赤く光り、下から押し上がるような火柱が立った。常人がこれを食らえば骨すら残らない。まさに瞬殺の力だ。
「真の力を解放するとこうも呆気ないものですね……」
彼は一発で済んだことを不満に思いながらも表情は晴れやかになっていた。
黒煙が掻き消えローブの人間がいないことを確認するとメクラームは「燃え尽きたか」と呟き歩き始める。
しかし誰かの声が彼の歩めを止める。
「えっと……僕に何か用ですか……?」
メクラームの背後から聞こえた少年の声。彼は焦って後ろを向くがそこには誰もおらず、再び前に顔を向けると先程まで火柱が立っていた場所に少年が立っていた。火柱はもうとっくに消えてしまっている。
「なんと……」
「興味深い魔力ですね……でも見たことはあります」
少年の手の震えは止まっていた。
そして少年の手にはスルリと魔力の塊である剣が握られていた。
あの時の少女たちと同じような剣だ。
「アーティファクトでしょうか? たいそう立派な武器をお持ちで……」
メクラームは喋りながら魔法を行使する。
急いで目の前の敵を排除しなくちゃならないからだ。
無数に高速で炸裂する魔法の
少年は口元を緩ませ見えない速さで剣を振るった。
まるで何もしていないのに少年の前から魔法が消える。
ジグザグと翻弄する動き。
速くはない。
だからそれに合わせて魔法を放つこともできる。
しかし届かない。
ならばと足を狙うが、同様にかき消される。
腕の動きは見えない。無数に飛んでくる魔法を高速で薙ぎ払っているだけで手の動きが視認できないのだ。
大袈裟に彼の進行方向の少し先に魔法を放ってみるがこれも消えた。
まるで彼の征くところ全てに間合いがあるかのように。
しかしながら手の動き、腕の動きは見えない。
動体視力を上げようがどのように魔法が消されているのかも見えない。
ある程度少年が間合いを詰めたところでメクラームは後ろに飛んだ。
後ろに飛びながらも自身の退路を確保する。
「魔力を微塵も感じないのに……なぜ彼からは恐怖を感じるのでしょう……いやまさか……」
見る。
彼を。
魔力の感じない彼を。
いや、感じさせない魔力を。
──その刹那、少年の剣がメクラームの袖を切った。
後ろに飛んだはず、間合いもある。それなのに届いた。
メクラームは悪い夢を見ているかのように額の汗をぬぐった。
蜂のように細長い剣を振り回しているわけでもない。ただの剣であるのにも届いてしまう斬撃。
少年はローブの中で微笑んだ。
口元だけが見えるのが妙に不気味である。
「剣だから距離を取れば良いと思っていましたよね?」
少年からの問い。
今度はメクラームにも見えるように少年は剣筋を見せた。
無駄のない、速くて軽い太刀。
魅入られてしまった。だが魅入られいるうちにぼとりと、メクラームの左腕が落ちた。
「なっ……腕が!?」
今度こそ目に捉えていた彼の剣筋。そこにはただの太刀だけではなく、刃先から生じた細く薄い衝撃波も飛んでいたのだ。
斬り落とされた腕の断面は真っ直ぐで綺麗であった。
そして少年はまた彼に見えるように一太刀見せる。
その様子を見て焦ったのかメクラームは慌てて手を前に出し抵抗を見せるが今度はどこも斬れなかった。
「は……はは……どうやら何回もできる技ではないようですね」
その時ドンッという何かが倒れた音がした。
メクラームは背後を見て何が倒れたのかを確認すると……。
「そんな馬鹿な……」
廃遺跡に立ち並ぶ何本もの支柱のうち1本が綺麗に斬り落とされ、切り口から上を全て失っていたのだ。
石をも斬り刻めることにも驚きだったが、何より驚くべきことは遠い柱に攻撃が届いているということ。
「遠距離がない世界でこういう技は使わないかなとか思っていましたが……どうやらそんなことはなかったみたいですね」
ここら一帯全てが彼の間合い。
メクラームは自身の杖を見て冷や汗が止まらない。
魔法による有効射程は一応あるようでもしかすると彼の間合いより短いかもしれなかったからだ。
「い、インチキですよそんなのは! 間合いが魔法より長い……!? そんな馬鹿なことがありえますか!?」
「やっぱり魔法だったんですね。凄いですね、僕も試したことあるんですけど大気に魔力が存在しないから諦め気味だったんですけど……」
ヒュンヒュンと音がしてメクラームの杖が破壊される。
「意外とできたりしちゃうんですかね?」
「──ふざけるなぁぁぁぁあ!」
魔法を冒涜したことに対する怒りか、杖を破壊されたことに対する怒りか、メクラームは自身の腕を一瞬で再生させ白く光る剣を握った。
メクラームは爆発的な脚力で間合いを詰める。
60代とは思えない脚力だ。
自身で開けた間合いを滴の落ちる時間ほどで詰めた。
光る剣は少年の剣を押し込む。
勢いを殺せず足を引きずられる少年。
彼の顔が近づいていく。
だがその口はまだ笑っていた。
メクラームが歯を食いしばり、さらに力をかけ始めた時少年は力を抜いた。
スルッと少年の剣を撫でる白い刃。
メクラームはそのまま自分の勢いに耐えられず剣を思い切り地面に叩きつけてしまう。
転がる彼に少年は斬撃を何度も放つ。
「くっ……そ!」
凹む地面から逃げつつ再度少年に斬りかかるが、あり得ない力で巨木に叩きつけられた。
少年の口元は最初より大きく歪んでいた。
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