第10話 なぜ噛み合う!?
メクラームが一つ上の階に上がったときだった。
目の前の地下空間には無数の騎士の死体が転がっていたのだ。
全てが一太刀、もしくは粉砕されていた。
音がしない。もう全てが終わった後のようだ。
「これは……」
死体の向こうで踊る影達。ローブを纏った謎の集団はメクラームの前に現れると一斉に剣を構えた。
「聖職者……神の遣いで間違いなさそうね」
異質な魔力をローブの中に隠しているのか、それが揺れるたびに尋常じゃないほどの魔力が見え隠れする。
一見するとただの盗賊のようにも見えるがその実態は本物の殺戮者。
メクラームはローブの奥に隠れている魔力の塊を警戒する。
──危険だ。
頭にその単語が浮かび上がる。なるべく刺激しないよう笑顔で対応することに。
「ええそうですよ。聖職者は神の遣いともいいますから。それがどうかしたのでしょうか?」
彼も一見するとただの聖職者。
だが彼女たちはそうは思わなかった。メクラームから溢れる神聖な魔力と加護を肌で感じ取ったのだ。
アイネルの目は男が実力者であることを見抜くと同時に、自身の敵であると認識する。
「──ナーヴィス神教会」
その言葉を口にする。
「ッ……! なぜひと目見ただけで宗派を言い当てられたのでしょうか。いかにも私はナーヴィス神教会の者です。もしかして信者の方々でしたでしょうか?」
信者が聖職者に刃を向けることなどないと知りながらもそう言う。
彼は冷や汗を垂らして一歩後退る。
11人ともなる影が目の前を塞ぐ。退路は自分の後ろだけ。
今喋っている少女ほどの魔力は感じられないが他の10人も同じような異質な魔力を覗かせていた。
「神教会の信者はあなたに刃を向けるのかしら? 野蛮な宗教団体なのね。まあ神の捧げ物と称し、殺しを推奨する犯罪集団だものね」
「捧げ物……どこでその情報を?」
「教えないわ」
アイネルはフードの下で笑う。
「ふふふ……ですが捧げ物というのはどの宗教でも同じ。それが人間だったと言うことだけですよ。何も珍しいことじゃありません。イメージが悪くなるので隠していただけですよ」
あくまでも正当な理由があるのだと言いたいらしい。
「その人間はどこから調達しているのかしら?」
「捨て子となった親の身を離れた人間ですよ。きっと捨てられた子も神の捧げ物となって喜んでいることで──」
「嘘ね」
「ッ──!?」
メクラームは表情を硬くして睨む。だがすぐに優しい表情に戻り手を後ろに組んだ。
「誘拐に監禁、親殺しに王族誘拐……調べれば調べるほど神教会悪行が出てくるわ。確実な情報でもなかったのだけれどあなたの反応をみる限りは事実らしいわね」
メクラームは表情筋を震わせる。もはや語らずとも彼の反応で真実が露呈する。
「この廃遺跡にも情報がありそうね? 調べさせてもらうわよ」
「ぐっ……どこでその情報を……」
「あら? 隠すつもりはないの? 残念ね」
「元よりこの場所をわざわざ襲撃しに来るぐらいですから情報など固めてきているのは当然のことです。人は嘘をつけばつくほど情報が漏れるのですよ。だから正直に答えたのです」
彼の表情は硬くとも徐々に落ち着きを取り戻している様子だ。
「いい考えを持ってるのね。じゃあ神に力を与えられていることも本当ということね──」
するとメクラームの裾から擦れるような音がした。
その時彼は白い刃を取り出しアイネルの頭に振り下ろした。
「知らないと思ったの?」
「どこまで知っているっ……! 神の願いは神官とその幹部のみの極秘情報! 漏れるはずがない!」
2人は睨み合い火花を散らしながらかち合う。
先に間合いを外したのはメクラームだった。
「願いの力で自分たちの行動が有利になるよう叶えてもらったのね。それが今の世界、普通親が簡単に子どもを手放すわけないわ。それも10歳から15歳と比較的若い子どもだけ。それも女の子のみ……なんだか都合が良すぎない? まるで牛が育つまでは食べないみたいに」
「ふっふっふ、世界の仕組みまで……相当頭が切れるお方のようです。ここにいる男は私のみ……皆さんは捨て子だったのでしょうか?」
「さあ、答える必要はないわね。どうせあなたはここで死ぬことになるから」
風を斬る。
そして剣先の刃が光る。
「随分と自信があるようですが捨てられる人全てが才能なし。魔力も少なく技術もない、そんなあなたたちが選ばれた私にどう立ち向かうのか見ものですね」
メクラームは両手に魔力を宿らせて白い剣を握る。
だがしかし今の自分の発言が矛盾していたことに気がついてしまう。
大きな魔力を保持した塊を才能なしのボンクラと発言してしまったのだ。
彼女たちは捨て子なのか、はたまた選ばれし力の結晶体なのか。
甘くは見れない。ここで戦闘をしても勝てる可能性は高くはない。不気味な魔力体を11も相手にするには愚策というもの。
だがメクラームの行動と思考では全く別の動きをしてしまっている。
なぜ逃げようとしないのか。
なぜ目の前のローブ少女が気になってしまうのか。
「久々に楽しめそうです……」
思考とは全く別の行動を取るメクラーム。
白い剣で目の前の魔力体に斬りかかり反応を見てみたかったのだろう。
少女が自分の力に屈服する姿を見てみたかったのだろう。
メクラームは自分の体で何が起きているのかも分からずただ目の前の少女に刃を振り下ろす。
何度も何度も振り下ろす。
しかし少女はその刃に目を光らせ最低限の動きで躱す。
空を切る音だけが聞こえる。その光景を見ていた他の10人の少女たちは滑稽だと声を殺して笑っていた。
「やはり自身の力を過信するほど強大な力を与えられているのね」
「与えられたのではありませんっ! 得たのです!」
「そう……それでさっきから当たっていないけれど何がしたいのかしら?」
「当たるまで振るえば良いのです。力を過信しているのはどちらかを証明させてさしあげま──」
その時メクラームの腹部に衝撃が走った。
目の前の少女が何かをしたわけではない。
素早い動きの魔力体が彼の腹と顔を殴り飛ばしたのだ。
メクラームは腹を押さえて苦しそうに膝をつく。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
そんな情けない声を出して痛みに悶絶する。
「ちょっとクォーテル。いま良いところだったでしょう? 情報を吐かせるために体力を奪いたかったのに……」
「え? 吐いてはいるよ?」
あまりの衝撃に胃酸が逆流したのかメクラームは嘔吐する。
「そういうことじゃないのよ」
「んでもちまちまやるよりかはこっちのほうが楽で良いんだ!」
クォーテルはガンガンと拳を突き合わせ魔力を放出する。
「ぐっ……どうやら全員にお仕置きが必要だったみたいですね……」
その瞬間彼の周囲に神々しい魔力の波が吹く。瞬く間に傷が癒え気配も大きくなる。
「周囲に影響を与える魔力……彼だけではなかったというのね」
剣ではなく握られていたのは装飾の激しい杖だ。先端に宝玉が付いたまるで魔法使いのようなものだった。
「──スパーク」
宝玉が光ると周囲に魔力による電撃攻撃が広がる。バチチっと青緑の雷光が彼女たちを打ちつけるもダメージはないようだ。
そして激しく炸裂するような光が周囲を焼くメクラームの姿はなくなっていた。
「周囲に影響を与える……神々が行使していた魔法のようね」
「魔法……おとぎ話ですか?」
イルデは興味があるのかそう聞いてきた。
「ええ。でも神教会の者たちはなぜかその魔法が使えるみたい。これも願いの力なのかしら。そしてその魔法を使って逃げたみたいね」
「追わないのですか?」
イルデが出口を指さして言うあたり地上へ逃げたのだろう。だが地上には彼女たちよりも恐ろしい存在が待機している。
「必要なさそうよ」
アイネルは天井を見上げて嗤った。
「それもそうですね」
他の少女たちも同意するかのように頷く。
「それじゃあ私たちは攫われた少女の確保と情報収集に移りましょう。あの聖職者は彼がやってくれるわ」
そう呟くと地上から大きな音が聞こえ始めた。
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