第7話 これはついちゃいけない嘘だったか……

 秘境の森から出てすぐの平原。そこで事件は起きたのだという。


 それはエンデルが捨て子を回収中、謎の襲撃に遭い捨て子が奪われてしまうという事だった。


 当事者であるエンデルは謎の集団をほぼ壊滅させたが1人を逃してしまったようだ。


「エンデルの報告によると逃走した者は秘境の森側からみて東に消えたという事です。その先には廃村がありそちらに身を隠している可能性があるかと……」


 たった1人の捨て子に本気になることはないだろうと思うレイン。逃げられたのは屈辱でも追いかける必要性は皆無なのだ。


 なぜ捨て子1人に本気なのか頭を悩ませるレイン。それを傍らにアイネルは地図を広げて何かを考える。


「廃村……盗賊が住み着いている可能性はなくもないわね。子どもの奴隷も結構流通しているようだし、根城にするにはうってつけの場所……」


 秘境の森付近の草原や森によく子どもが捨てられるため攫う分には丁度いい拠点なのだろう。


「だけれどエンデル相手に逃げ切れるような盗賊がいるとも思えないわ。もしかするとようやく足を掴んだというのかしら」


 難しい表情になる2人を見てイルデはこう提案する。


「エンデルが捨て子回収に失敗したのは初めてのことです。何かが起きていると考え今回は戦力を上げて奪還するべきかと……」


「えぇ……」


 レインは乗り気じゃなかった。


 どうやらわざわざ危険を冒してまで捨て子を救う必要がないからだ。


 死んでしまっては元も子もない。回収に失敗した時点で断念すべきなのだ。


 だからこの会話はレインにとって恐ろしい。


「そうしたほうがよさそうね。幹部を全員招集しなさい。もちろんレインもついてきてくれるわよね? 我ら全員でこの廃村を叩きたいの」


「待て……」


 アイネルの指示に待ったをかけたのはレインだ。どうやら見えない場所で足を震わせているようだ。


「どうかしたのかしら?」


「君たちの身の安全を考えるとそのような許可は出せんのだ。よく考えた結果それが最善だと……」


 人の心配というより彼は我が身を心配している様子だ。


 自分の名前が出てきたレインは必死に自分だけは行きたくないとアピールする。


 ──そう、ビビっているだけなのである。


 レインは外の世界を全く知らないため、どんな人がいるのか想像もつかない。自分が強くなってもそれだけでは安全かどうか分からないからだ。


「ありがたいわレイン。でもそれだと私たちの同胞を救うことはできないわ」


「確かにそうだろう。だが僕からしてみると君たちを失うことだけは絶対に避けなくてはいけない」


「「ッ……!?」」


 レインの言葉を聞きアイネルとイルデは胸を打たれる。こんなにも自分たちのことを想っているなんて……と。


 だがしかし彼は机の下では足を震わせている。


「君たちも十分に強くはなった。しか〜し僕らは元より才能なしだ。外の世界の人間……すなわち才能を持った人間がどれほど強いのか知らない」


 アイネルとイルデは顔を見合わせて言葉の真意を探るがわからなかった。


 それもそのハズ、外の世界を知らないのはレインただ1人だけなのだから。


 ほとんどが10歳までは外の世界にいるため危ないなどの認識は全く無いのだ。


 4歳で捨てられる。しかも転生者であるレインがビビるのもおかしいことではない。


 だがそれと同時に彼は外の世界よりも秘境の森のほうが数百倍も危険なことを知らない。


「なるほど……」


 しかしみんなが慕っているレインがビビリであると思わないため、慎重で冷静な人なんだなと思われるだけだった。


「安心して、レインの手を煩わせるようなことはしないわ。成長した私たちの活躍をみてほしいの」


「……っ」


 怖くて戦えないからよかった……なんて口にしたら絶対に馬鹿にされるだろう。


「た、確かにそういう機会もあったほうがいいな……それに見守ることで危ないときにいつでも助けに行ける」


 できれば戦いたくないとそうも聞こえる。


 慎重過ぎるのはよくないことだ。確かに外の世界を知らないレインが緊張を得ることはおかくしないことではある。


 それでもビビりすぎだ。


「そういうことだったのね。危ないって言ってくれるからあなたが全部片付けてくれるかと思っていたもの……」


「ふっ……そんなわけ無いだろう」


 足の震えが大きくなる。


 そんな事が出来ているならビビる必要もないからだ。


「ふふ……それじゃあ役割を決めて直ぐに向かうわよ」


「……待て」


 二度目の待った。


 彼は自分が戦わなくてもいいと言う条件の他にもう一つの条件を付け加える。


「直ぐには向かうな。向かうなら夜の暗いときだ」


「どうしてかしら?」


「……追手がこないと油断させるためにだ。今はかなり警戒しているだろう」


 どうやらレインは何事もないようにあえて敵の逃げる時間を作ってくれるようだ。


 ──さらに。


「それに廃村はフェイクで西側の廃遺跡に奴らはいる」


 報告とは全く違う場所を指定して危険とぶつからないよう誘導する。なんてビビリなのだろうか。


 ポヨヨが聞いたら呆れそうな提案だがアイネルはその判断を疑うこともなく信じた。


「確かに廃村よりは廃遺跡のほうが地下もあって根城にするにはいい場所だものね。東側に逃げたのはアジトがバレないため……流石の考察ねレイン」


 彼は足を大きく震わせる。


「そうだろう……うん……」


「イルデは幹部のみんなを招集して、役割を決めるわ」


「任せてください」


 ヒュンと風のように消えたイデル。


 対してレインはキリキリとする腹を押さえる。そしてドサクサに紛れて静かに退出した。

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