第6話 良かった……170はある

 あれからさらに4年後。レインは推定14歳となり、アイネルも14歳となった。


 同い年ではあるものの大人びた彼女と比べると精神年齢は劣っていた。


 彼は成長した彼女を見て少しセンチになった。


 しかしレインも彼女に剣術や武術、体の使い方を教えているうちに気にならなくなっていく。


「ぽよよ〜ん……」


 謎の生命体ことポヨヨは年齢不詳。見た目も全く変わらないためこれが成体ということになる。


 レインたちも完璧ではないものの成人の体に近づいている。


 アイネルは大人の女性の体になり色々と目線の配慮が必要となった。レインは異世界の成長スピードはダイナミックだったということに気付かされる。


 しかしレインにもダイナミック成長期が訪れる。


 幼い頃にあれだけトレーニングをしていたのにも関わらず、身長は178cmを超える比較的普通の身長まで伸びることになった。


 アイネルは170cmというプロポーション抜群のスタイルだ。


「はあっ……!」


「負けられませんよ!」


 と、4年間で起きた変化はこれだけでなく新しく捨て子を拾い続けていたらかなりの数になっていた。


 女9人、性別不詳が2人と1匹……古参はそれぐらいだ。その他にも沢山捨て子がいるがレインはその11人から面倒を見るのを諦めた。


「なんかいつの間にかこんなにいっぱい増えて……組織でも作るのかな?」


「ふふーん。ポヨヨの保護欲が溢れに溢れてしまったからですね」


「君のせいでみんなが僕の苦しいトレーニングをする羽目に……。脱落者がポヨヨだけだったってのが凄いよね……」


 レインは煽るような目で彼女を見た。


「ポヨヨはデザイナーですから。集めてきた素材やら何やら簡単に加工できる役割があるのです」


「でもそれ僕でもできるよね?」


「ギグギグッ……そ、そんな事気にしてたら社会は成り立たないんですよ? ここにも小さな文明が生まれつつあるので大目に見てくださいよぉ……」


「ふーんまあいいや。家を作れるの君だけだし」


「やったぁー!」


 周囲に建築されている家々。彼らの拠点はこの川を中心に分断されているような形となっている。


「男子寮、女子寮みたいに分けたのは天才だと思う。ツッコミどころは男子が1人しかいないのに男子寮があるというところだけど……」


「ねっ?」


 可愛らしくウインクをして星を飛ばす。


「でも僕の家と言うか部屋? それがなんで女子の方にあるのか非常に気になるんだけど……せっかくなら使わない男子寮を使わせてよ」


 男子寮は完全に物置状態になっていた。


「男は女を侍らせているのが一番似合うかなーと思いまして……もしかして嫌でしたか?」


「全男子が夢見そうだがコミュ障の僕からしてみればあまり好ましくない状況だ」


「でもレインさんほとんど外で修行するから部屋に戻って来ないじゃないですか」


「誰のせいだと思いで?」


 ポヨヨはえへへと舌を出して謝る。


「拠点が大きくなるのは良いけど人数把握やらトラブルは結構あるんじゃない?」


「それはないと思いますよ? だって女性陣の方はレインさんに認められるために自分磨きに没頭しているんですよ? 他人に構っている暇はないんだと思います」


 各々やることはやっているようでレインも一安心。


「ふうん。それじゃあ僕も負けてられないな。いつもの場所でいつものトレーニングにでも励むよ」


 去年から直接指導することをやめて以来彼も自分の力磨きにより拍車が掛かっているようだ。


「ポヨヨもついていきますよ」


「珍しいね、別にいいけど面白いものはないよ?」


「いえ、ついていくことに意味があるんですっ」


 ワクワクした表情でクリクリの目を向ける。アホみたいに口を開けており、見たまんまの子どもだ。


「君は変わらないね」


「今失礼なこと言いましたね?」


 犬の赤ちゃんのような見た目で喋り方も赤ちゃんのポヨヨ。


「いいや全然。むしろ変化がないのはつまらないと思ったよ。てっきり猛獣に成長するかと思ってたからさ」


 ポヨヨが頬を膨らませると彼はダッシュで逃げた。


 いつもの修行場所へつくとレインは壁に傷を入れた。


「待ってくださいー!」


 あとから追いかけてきたポヨヨもすぐに追いつく。素早さだけは一丁前だ。


「うわぁ……いつの間にかこんなに壁に傷をつけてたんですねー」


「日が昇った回数ここに傷をつけてる」


 雨風にさらされてもこの傷だけはいつも残っていた。


 すると木陰の向こうで空を切る音が聞こえる。


「アイネル今日も来てたんだ。いつも早いんだよねー」


「それレインさんが言えますか? あなた2時間前までにここにいたじゃないですか。一般人はそこまで睡眠削れませんからね」


「それほど強くなることに命賭けてるんだ。来年に向けてね」


 レインは魔力を可視化させて剣を生み出す。


「さらっとすごいことやってますけど普通そんな事出来ませんからねっ」


 魔力で物体は作れないが当たり判定は作れる。


 そんな発見をしたのかレインは木剣ではなく魔力の剣で素振りを始めるようになった。


 こうすることで魔力を鍛えながら技術も鍛えられるという一石二鳥なのだ。


「レインさんって人間やめてますよね?」


「まあ才能なしって言われて捨てられてるし人間やめてるんじゃない? そもそも人権なさそうだし」


「理論の話じゃないですか……生物的にって意味ですよ」


「褒め言葉だったのか。ありがとう」


「違いますよ……いやもういいですっ」


 拗ねたポヨヨはアイネルに甘えに行こうと彼女の方へホバリングする。すると飲み込まれるような風に引き寄せられ危うく吹き飛ぶところだった。


 レインが一振りするといつもこんな感じだ。


「ちょっと毎回こんな感じで素振りしてるんですかぁぁぁぁ……」


「今日は出力を上げて素振りしたんだ。たまには出力上げて振るってみたいことあるじゃん? そういうことだよ」


「どういうことなんですかぁ……」


 たった一振りの素振りは木の葉を何枚も禿げさせた。


「いつもの調子ね」


 するとレインの修行の様子を見ていたのかアイネルが近づいてきた。


 肩を出した動きやすそうな服だ。まあレインの上裸に比べるとかなり隠している方ではある。


「いや、今日は少し魔力の巡りが悪いかな」


「あらそう? 目で見ても意外とわからないものね」


 アイネルも魔力で剣を可視化させ、力を込めて振るった。レインと同じように風が吹き荒れ木の葉を禿げ上がらせる。


「うむ……まだ魔力のコントロールが甘いね。それにそんなに力一杯振るわなくても……」


「ふふっ……こうでもしないとあなたに近づけないもの」


 2人の背中を見ているポヨヨは目を細めて妬んだ。イチャイチャするんじゃねえと心の中に留めておいて発散する。


「別に威力を真似しなくても技術だけあれば十分だよ」


「もう、そういうことじゃないわよ」


「ケッ、イチャつきやがってぇー」


 哀愁漂う背中を醸し出すポヨヨはメスになっているアイネルを見て羨ましがる。それと同時に鈍感すぎるレインにイライラしているようだ。


「私はここで毎日修行に励んでいたわ。声の一つぐらい掛けても良かったんじゃない?」


「真剣な顔をしていたし声を掛けるのは野暮かなって思ってただけ。別に無視してたわけじゃないよ」


 レインは真っ直ぐ剣を振るい彼女を見てはいなかった。


「あら見てたの……恥ずかしいわ」


 両手を頬に当ててあざとらしい態度を取る。しかしレインが彼女を見ているわけではなかったためポヨヨに見せつけるだけとなった。


「なんで気づかないんだよう……バカじゃん……」


 2人に聞こえないよう呟くポヨヨ。


 キャラ作りのためのキャピキャピの口調とは違うがこれが素のキャラなのだろう。声色は変わらなかったが。


「ねぇ、来年学園に入学するって本当?」


「本当だよ。そろそろ外の世界のことも知ろうかなって。覚悟を決めないといけない時が来たんだ」


 半分興味、半分力試しと言ったところだろう。だがその手は何故か震えている。


「そう……。それなら私も連れてって貰えないかしら。我儘は承知で言っているのだけれど……」


 レインは顔色一つ変えずに素振りを繰り返す。だがやっぱり手が震えているような気がする。


「僕は構わないけどみんなはどうするの? 一人を許しちゃえばみんなの怒りを買うことになるけど……」


「そうよね……軽率な発言だったわ」


「いやいや、別に僕は良いんだよ。みんながどう思うのかが気になっただけだし……それに君はあの集団のリーダー的な存在でもあるんだしさ」


「リーダーはあなたよ。私は副リーダーみたいなもので特に何かをしているわけではないもの」


 とは言いつつも、新しい家の建設指示、軽いインフラ整備、集団のまとめ役、遠征チームの編成、周辺地理報告まとめなど結構色々やっているみたいだ。


 それに比べてレインはなにもしていない。全てアイネルかポヨヨに丸投げである。


「それでも君がいなくなった後は大変なんじゃない? 組織の一つでも作れば幹部を統括するだけで簡単に指示が出せるけど、今はそんな余裕なさそうに見えるしね……」


 ただでさえ才能なしで捨てられ、力を得るために没頭している。


 それだけで精一杯なのに、幹部という下の面倒まで見なくてはいけなくなる。


 その時点で組織が破綻してしまうと、レインはそう考えた。


 だがその点に関してはもう解決済みで、アイネルはレインが知らないところで着実に組織の形を作っていた。


 幹部の構成もその班も。


「そうでもないわよ、組織は出来つつあるわ。私の軽い指示だけでいつでも統率が可能よ。もちろん学園に通うことで多忙になることはあるけれどそれでも難なくこなせるわ」


「……それならそれでもいいんだけど、みんな納得してくれるのかなあ? 特にイルデ辺りは反対してきそうじゃないかな?」


「……そこはなんとか説得してみるわ」


 自信はなさそうだったがとりあえず頭に入れたようで彼は頷く。


 そこから間一髪入れることなく森の奥から姿を見せる。


「レイン様ご報告が……おや、アイネル様もいましたか」


 噂をすればと言うやつだろう。銀髪に紫色のポイントカラーが入っている少女。


「イルデか……何かあったの?」


「森の外に探索に出ていたエンデルが捨て子を回収中、謎の集団の襲撃に遭い捨て子を奪われてしまったようです」


 レインの手が震えた。

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