第4話 マスコット

「ぷふぁ〜助かりましたー」


 珍獣、そう言われてもおかしくないぐらいには変な生き物だった。


 キュートを売りにしているのか全体的に魔物とは様子が違う。


 アホそうな見た目だ。


「見たことない生き物だ。喋るマスコットキャラみたいなポジションかな?」


 見た目からそう考察する。


 だが違ったのか謎の生命体は腕を上下させて暴れる。


「マスコットって言うなです。ポヨヨはポヨヨなのですぅー」


「……一人称が自分の名前を言うパターンね。いよいよマスコットキャラだね」


「んん? 人間さんは自分の名前で呼ばないんですかぁ?」


 困り眉で謎生物は尋ねる。


 小さい羽をパタパタさせているが本当にそれだけで飛べているのかは怪しいところ。


「僕は僕って言うからね」


「あ、人間さんはボクって言うんですね」


「そうだよ。男の一人称ってだいたいそんなものじゃない?」


「性別は関係ありませんよ。ボクさんは男の子なんですか?」


「ボクさんじゃなくて、僕にはちゃんと名前が付いてるよ」


「んん? どういうことですか?」


 ポヨヨは一人称と名前がごちゃごちゃになっているようで話が噛み合っていない。


 その後に彼は自分の名前をレンではなくレインと教えることにした。異世界っぽい名前であり、前世の名前を使うのは違和感があったからだ。


「そういうことだったのですね? ポヨヨわかりましたよぉ」


 ポヨヨは嬉しそうに羽を動かして両腕を上下させる。


「何その動き。やっぱりマスコット意識してるじゃん」


「だからポヨヨはマスコットじゃないですぅ〜! どこからどう見てもポヨヨは妖精さんなのですっ」


 ドヤァ……とキメ顔でレインを見るが全然カッコよくない。むしろ愛らしい妖精だ。


 レインは胡散臭いと思いながら話を聞き流す。


 そして使えそうなものを一度に纏めると馬車を後にした。


「レインさん、どこにいくのですか?」


「家に帰るの。荷物たくさんあるし使えそうなものは取っておいた方が良いかなって」


「一度に全て運ぶ必要はないのではぁ……?」


「何回も戻って来るの面倒だもん。だから一度に全部運ぶ」


 するとレインは馬車ごと持ち上げて歩き始める。


「うぇぇぇええ!? なんですかそのゴリラみたいな力!? びっくりしましたよ」


 キャルキャルだった声から野太い悲鳴を上げるポヨヨ。


「これぐらい普通だって。あっ……なんか落ちた。ごめんけど拾ってくれる?」


 ジャラと金属の入った袋が馬車から転げ落ちる。金貨袋のようで馬車を持ち上げたときに落ちたのだろう。


「あ、これですか? いいですよー」


 ポヨヨは馬車を持ち上げるレインに引きながらも金貨袋を持ち上げようとする。


「流石に馬車は無理ですが、この袋ぐらいならお手伝い……」


 ポヨヨが袋の上部を持ち引っ張り上げようとするも持ち上がらなかった。


「え……こんなに重いんですか……」


「何してるの? 持ってくるだけでいいから手伝ってよ」


 そう言いレインは先に行ってしまう。


「ちょっと待ってくださいよぉ。これっ……全然上がらないよぉ……」


 なんとか踏ん張って持ち上げ、パタパタと必死に羽を動かし移動し始めた。


 ポヨヨはなんとか彼の言う家まで持ち続けることができたが、レインの家に着くとすぐに地面に倒れた。




 ───────────────────




 川から離れた位置に存在する小屋。レインが一生懸命建てたのだろう雨風はしっかりと防げるようだ。


「き、きつかったですぅー」


 金貨袋を運び終わったポヨヨ。


 レインはその何百倍かは重かったが汗一つ垂らさずに運びきってみせた。


「あー、手伝いありがどう。それじゃあ君も自由の身だ、バイバイ」


 ペットの様子を見る気はないのかレインはポヨヨを追い出そうとする。


「ガビーン……ポヨヨを捨てちゃうんですか? 女の子捨てちゃうのはまずいですよぉ」


 わかりやすいように傷つくポヨヨ。彼女は必死に自分が可愛いとアピールし捨てられないようにする。


「メスだったんだ。配慮が足りなかったね。はい、じゃあこれあげるからまたね」


 そう言うとレインは少額の金貨袋を手渡した。


「うわぁありがとうございますぅ……じゃなくて! ポヨヨを捨てるのはダメですよぉ!」


 ふよふよ浮きながら彼女はレインの腕にしがみつく。


「ふぇ〜捨てないでくださいー。モフモフしていいですからポヨヨを捨てないでくださいぃー!」


「うわぁ……」


 レインはしがみつく珍獣を引き剥がす。


 そしてボムっと河原の石に座らせ落ち着かせるといやいや語りだした。


「いろいろ言わせてもらうけど僕も必死で生きてるんだ。1人でもきついのにさらに1匹増えると生活が苦しくなる」


「ふぇ、どういうことですかぁ?」


 まったく生活に困ってなさそうに見えたポヨヨは首を傾げて尋ねる。


「僕はこの過酷な世界を生き延びていくために必死に修行してるんだ。君の面倒を見ながら修行をする余裕なんてないよ」


「えっと……あの……なにか勘違いされてますか? 別にポヨヨは修行を受けたいわけじゃ……」


「なんだって!? ポヨヨくん、君はこの世界を舐めている! 僕が最初の1年を生き抜くためにどれほど苦労したかわかってないだろう!」


 ポヨヨは何を言っているんだろうと必死に考えるが思い浮かばない。


 確かに人里離れてひっそりと暮らす人間はいるが、彼は何か異常だ。普通ではない。


 改めて周辺を見渡し気配を探るポヨヨ。


 すると彼女は震え上がり、パヤパヤだった毛が逆立つ。


「うぅ……」


「どうしたのそんなふっくらして」


「れ、れれ、レインさん。どうしてそんな普通でいられるんですか」


 声が震えていた。


 周囲には萎縮してしまいそうなほどの魔力の気配がした。


 それも一つではなく無数に。


「忘れもしません、ここは世界から恐れられている秘境の森です。レインさぁん……どうしてこんなところで生活してるんですかぁ。ポヨヨ今捨てられたら生きていける気がしませんよぉ」


「秘境の森……この森の名前なの? 確かに魔物たちは強くて戦い甲斐があるけどそんなに恐れるほどのものじゃないよ。慣れれば結構可愛いんだあいつら」


「何言ってるんですかぁ! ポヨヨの毛並みの一本よりも可愛さがありませんよ!」


「う〜ん……そこまで怖いって言うなら一緒に過ごしてあげないこともないけど……」


 ポヨヨはこんなところにずっといるのは嫌だと震える。


 それをレインは了承と受け取り快く迎えることにした。


「仕方ない。ペットが1匹増えようが僕の修行に支障はでないからね」


「えっ……いや、やっぱりやめとこうかな……なんて」


 彼女がえへへと可愛く鳴く。するとレインの表情が段々と曇っていった。


「しないの? でも君なんか弱そうだしすぐ食べられちゃうかもだよ」


「ふぇえふぇえぇぇえ!? 嫌ですそんなの。こんな可愛い生き物を食べないでくださいぃぃい!」


「そんな事僕に言われても……」


「レ、レインさんといっしょにいます。そうすればきっと生き残れますからぁ」


 初めは捨てないでと言っていた彼女だがイヤイヤ彼と過ごすことを決断したようだ。


「決まりだね。逃げ出したくなったら逃げてもいいよ。でもその時は終わりかもね」


「はうっ……」


 それと同時に彼女はこの先の地獄を見ることとなった。

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