第2話 奇妙な主人
大通りから細い路地に
手には『桂庵行』でしたためてもらった紹介状を大事そうに握りしめて。
『ちょっと主人の方が......独特でな。何人もうちから紹介されて勤めに出ていたんだが、みんなすぐやめちまってな』
意味ありげにそう語る『桂庵行』のおやじを思い出す
「仕事は何をしている人なんだい。ちゃんとお給金払えるならなんでもいいよ」
「仕事は......学者らしい」
「へぇ~役人さんかい?」
「いや、市井の学者で何でも昔のことを色々研究しているらしい」
ふうん、と
「そんなんで食えるんかい?」
「いや、財産はかなり持っておられるようだ。まあ、金持ちの道楽というところなのかもな」
「それじゃぁ給金もいいだろうし、なぜみんなやめてしまんだよ」
おやじは口を閉じてしまう。
そんなやり取りを思い出しながら、
「まあ、なんかヤバそうな気もすっけど、大丈夫だろう。俺なら」
見た目は少年の姿の
「女、っていうだけで軽く見られるし給金も安い。それなら、いっそこの格好していたほうが儲かるしな」
「前の奉公先は良かったけど――じいさん、死んでしまうんだもんな。まあ年だからしょうがないけど」
最後まで
《じいさんが死んじゃったらおれの仕事もなくなるしな》
とはいえ、
しかし――運命には逆らえず、ある朝老人は息を引き取った状態で迎えることとなる。
老人が死んだ日、親戚と称するものが家に押しかけ
「生きてるうちは顔出さないくせに、死んだあとは残した財産目当てでやってくる――まあ、そんなもんだろうな。おれん家もそうだったし」
今は家もなく、寝床もない。手持ちのお金もかなり心細くなってきた。
一刻も早く、新しい住み込み先を見つけなければ――ということでいわくありげな仕事を即決したのであった。
「北ニ下四四五......と」
手書きの地図を見ながら行先を確認する。
「しかし」
ふと顔を上げる
「そんなにみんな辞めちゃうってどんな主人なんだろう」
主人の名前は翔極といった。
辞める理由は、主人が厳しいからか?
もしくは、なにか怪しい趣味があるとか?
そういう雇い主は何人かいた。
奉公人に手を出すようなやばい主人。
正直、自分のようなぱっとしない子供を相手にする大人も――いないわけではない。むしろ、金持ちこそそういう輩が多いのである。
「まともな人だといいんだけどなぁ......まあまともな人なら、すぐ使用人が辞めるわけもないんだろうけど......」
いつの間にか、住所の場所にたどり着く。キョロキョロとあたりを見回す。
「でっけえ庭だな」
門は開け放たれていた。
こんにちは、と声をあげるが反応がない。
石畳の上を歩く
庭の植木もきちんと整えられており、かなりのお金持ちなのかもしれない。
「ん......?」
普通であれば、石畳の先には玄関があるものだがなぜか大きな蔵に行き当る。立派な白壁とごつい瓦の屋根。
その蔵の大きな扉は開け放たれ、まるで口を開けているようだった。
すうっと、その中に吸い込まれる
足が勝手に動く――なにか、得も知れない力に引っ張られたのかもしれない。
暗い蔵の中。
見えてきたのは天井。そしてその高い天井の下には――いくつもの本棚が並んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます