鳳朝偽書伝
八島唯
第1話 都の風景
都の大通りは、いつも人で賑わっていた。
役人の姿もあれば、商人の姿もある。
店に並ぶ、見たこともないような海の向こうの果物。
異国の服をまとった一団が見慣れぬ動物を引き連れていく様子に、子どもたちの目が釘付けになる。
ここは『鳳』国の都『玄曜』である。
『鳳』王朝の成立よりすでに百年以上が過ぎ、世の中は平和に治められていた。
周辺の異民族も平定され、他国との貿易も盛んとなり、大通りには露店が軒を連ねていた。
誰しもが、『鳳』王朝の興隆と、その皇帝の善政を褒め称える時代であった。
「で、勤め先はないのかよ!おやじ」
その通りに大きな声が響き渡る。
その大通りの一角にそびえる大きな建物。看板には『桂庵行』の文字が彫られていた。
「ここは、仕事を紹介してくるところなんだろ。ケチ言わずに、ほらちょちょっと世話してくれよ!」
先ほどと同じ声。
その声の高さから、変声期前の少年の声のように思われる。
そして、少年の前には人の良さそうな中年男が眼鏡をかけ直しながら帳面をめくる。
「この、都一番の口入れ屋である『桂庵行』なんだ。奉公先なんかいくらでもあるだろう!」
少年が腕を組みながら、そうせかす。
少年の背は、さほど高くはない。
髪は短く黒い。顔は大きな目が印象的で、着ているものはそれなりにこざっぱりしているがやや古くくさく感じられた。
「そう言われてもなぁ......最近は、男の使用人は力のあるもの優先だからなぁ」
「そう言わず、そこをなんとか!頑張って働きますので!」
両手で拝み倒す少年。ため息を付きながら中年の男性は帳面をめくる。
『桂庵』とは勤め先を紹介する口入れ屋のことで、『行』とはいわゆるギルドのことである。
この『桂庵行』には都の様々な仕事が寄せられていた。
仕事の欲しいものはここに行けば、だいたい食べるに困ることはなかった。
「しかし......なんで、『男』のカッコなんかしてるんだね、『
大きく首をふる『
「そういうのは嫌いなんだよ。だから、男のかっこしているだからさ。なぁ頼むよ」
この時代、ちょっと裕福な家では使用人を雇うのが当然であった。
ご飯を炊くにも、洗濯をするにもとにかく人手が必要である。
首都『玄曜』の真ん中にある皇宮『鶴翼殿』では数千人の女官や下僕が働いているらしい。
そういった意味では
しかし――
「こうも平和な時代が続いてしまうと、男手もなかなか余ってしまってな。まして子どもの仕事となれば――」
戦乱の時代においては男はみな兵士となり命を失う。この『鳳』王朝では百年以上その戦乱を経験していなかった。結果『男余り』の状況が生まれているのだった。とりわけ住み込みの使用人となると、男性よりは女性の方が優先される傾向があった。
「――お!?」
『桂庵行』のおやじが大きな声を出す。ビクッと反応する
「なんだよ、大きな声出しやがって!」
「――ここなら、お前でも雇ってくれるかもしれん」
そう言いながら帳面を
そこには雇先の人物の名前と住所が書かれていた。
『依頼人指名:
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