第44話

「どうだった?」

 帰ってきた翔は、菜々美に聞く。

「なに」

「新しい担当」

「あー……」

 言葉を濁す菜々美は、どう言ったらいいのか迷う。

「今まで関わってきたことのない人……かな」

 そう言うしかなかった。だから翔もそれ以上、瀬田の話はしなかった。


「菜々美」

 キッチンに立つ菜々美の後ろから抱きつく翔。

 翔と暮らし始めてから、料理をするようになった。それまで全くといっていい程にしてこなかった。だから料理はまだまだ初心者。

「翔。今、包丁持ってるから」

 じゃがいもを切ってる菜々美の手が震えてる。

「抱きつかれたら怖くて指切りそう……っ」

「なに作ってるの?」

「……肉じゃが」

「いいね。おれ、好き」

 そう言って菜々美の頬にキスをする。

「着替えてくるね」

 菜々美から離れて寝室へ向かった。その後ろ姿を見てこの生活が、心地よいと感じていた。


(私……、いつの間に翔と暮らすことに心地いいなんて思うようになってる)

 その心境の変化が不思議でならなかった。自分が他人と暮らすことに嫌だと思わず、安心してることが、とても不思議だったのだ。

「私……」

 じゃがいもを切ってる手を止めて、リビングの入り口の方を見ていた。

(翔とこのまま暮らしていける?)

 その可能性の光が見えた気がした。




     ◇◇◇◇◇




「おっ。うまそう」

 翔はそう言ってくれたが、菜々美は自信はない。なんせ、肉じゃがも初めて作ったのだから。

 翔が口に運ぶまでじっと見る菜々美は、不安で心配だった。

「んっ!旨いっ」

「嘘っ」

「いや、マジ」

 そう言ってどんどん口に運んでいく。そんな翔を見てほっと安心したように、菜々美も食べ始める。だが、美味しいのかはよく分からなかった。



「おれが片付けるよ」

 食事を終えたふたり。翔が自ら食器をキッチンに持って行き、洗い始める。

「いいのに……」

「こういうことは協力してやるもんだろ」

 そう言う翔に小さく「ありがと」と言った。

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