第43話

 山之内が新しい担当を連れてきたのは、一週間後だった。山之内の言う通り少し「ん?」と思わせるような人だった。


「すっげぇー!キレイな先生ですね!こんなキレイな先生と過ごしてたんですか!」

 菜々美のマンションに入るなり言った新しい担当の瀬田。

「マンション、すげぇー!こんなところに住んでるなんてすげぇー!」

 さっきから「すげぇー!」としか言ってない瀬田に、菜々美はうんざりしていた。

 仕事部屋に入るとまた「すげぇー!」が飛び交った。

「なんなんすか、ここはー!すげぇー!」

 部屋の中は本棚に囲まれている。その本棚にはありとあらゆるの本でうめ尽くされている。小説もラノベも漫画も児童書も。菜々美が興味を持った作品がそこにある。

「図書館でも開くつもりですかー!すげぇー!」

「山之内……、こいつ五月蝿い」

「ですよねぇ……」

 山之内も呆れている。

「アホなんです」

 山之内の言葉に瀬田が反論する。

「アホってなんすかー!」

「アホだろ。じゃなければバカだ」

 呆れてる山之内は瀬田を睨むように見るとため息を吐いた。

「頼むから菜々美先生を困らすんじゃねぇぞ」

 少し凄みのある声で言う。山之内は菜々美に背を向けていたから、どんな顔をして言ったのか分からないが、瀬田が「はい……」と小さくなっていたから相当睨みを効かせていたのかもしれない。

 それから山之内は菜々美にどんなアドバイスをすればいいのか、どんなものを書いてきたのかを話していた。その間も瀬田はフザけては山之内に叱られ、菜々美には呆れられていた。



「では菜々美先生。今日はこれで帰ります」

 山之内がそう言うと途端に寂しさが込み上げてくる。

 デビューした18の頃からずっと担当してくれていたから、家族以上の存在。そんな存在が傍にいなくなると思うと寂しかった。

 それは山之内も同じで妹のように見ていた菜々美から離れることは寂しく感じていた。

 玄関の扉を閉めると、山之内は瀬田を厳しい目で見た。

「菜々美先生になんかしたら許さないぞ」

「なんですかー、それー!」

 大袈裟に山之内を見る。

「確かにキレイな人でビックリしました。ああいう女性と一度ヤってみたいですけどね!」

 何も考えずに発言した瀬田は、山之内に思いっきり殴られた。

「なんなんすかー!」

「菜々美先生をそんな目で見るんじゃない!」

「えー!だっていろんな男とヤってそうじゃないですかー!」

 山之内は再び瀬田を殴った。ドカッ!と大きな音を立てて殴られた瀬田はそれ以上言うとまた殴られると思い、会社に戻るまで一言も話さなかった。




     ◇◇◇◇◇




「今日、新しい担当さんが来たの」

 テーブルに珈琲が入ったカップを置いて、椅子に座る。不安そうな菜々美を見て、かよは「どんな人?」と聞く。

「……よく分からない。でもチャラチャラした人……かな」

「菜々美が避けていた人種だわね」

「避けてた?」

「避けてたよ」

 確かに菜々美の回りにはそういう人はいないし、公道にそういう人がいると避けて歩くように過ごしてきた。

「無理そうなら、ちゃんと話した方がいいかもよ」

「うん……」

 珈琲を一口飲んだ菜々美は、ため息を吐いた。

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