第42話

 山之内が去ってから、菜々美は少し元気がなかった。

(それ程の人だったんだ……)

 翔は菜々美の様子を伺いつつそう感じた。自分の知らない時間を、ふたりは一緒に過ごしてきた。

 そのことに翔は少し嫉妬心を抱いていた。


「菜々美」

 リビングのソファーでクッションを抱きしめ、何かを考えている菜々美に声をかける。

 いや、何も考えていないのかもしれない。

 ただ呆然とそこに座っている。

 隣に座って菜々美を抱きしめる。

「翔……」

 抱きしめられたことで存在に気付いたかのように、顔を上げる。

「担当が変わったって、会えないわけじゃないだろ?」

 それでも今までのようにはいかないから、落胆する。

 次に新しい担当を連れてくる日が最後となるかもしれないと、菜々美は苦しくなる。

「……ん」

 翔に抱きしめられながら、これからのことを考えると上手くやっていけるのかと不安になる。コミュ障の菜々美だ。どうすればいいのかと不安が、文章に現れてしまうだろう。

 それでも書かなきゃいけないのだ。




     ◇◇◇◇◇




「翔」

 先に寝室で休んでいた翔に菜々美が声をかける。

 まだ気落ちしている菜々美だが、傍に翔がいてくれていたから取り乱すことはなかった。

「今日はもういいの?」

 コクンと頷き、ベッドの上にいる翔に飛び込んだ。力強い腕でしっかりと抱きしめられる。

「菜々美って結構甘えん方だよな」

 耳元で囁くように言う翔。耳元で言われたからなんだか恥ずかしい。

「菜々美」

 菜々美の頬に触れ、そっとキスをする。菜々美はそれを黙って受け入れた。



 ドサッ。

 と、菜々美をベッドに沈める。

「おれだけを見てろよ」

 悲しい目をした翔が真上にいる。それがどういうことか分からずにキョトンとする。

「山之内さんのことを考えるな」

 それを言われてはっとする。翔は山之内に嫉妬していた。

「翔……。山之内は、兄のような人なの。そういう感情はないわ」

 両手で翔の頬を包み込むように触れる。その手を翔は握りしめ、菜々美の唇に吸い付いた。




「あ……っ、ア、……っ!」

 菜々美のそんな声が部屋の中に響いてる。いつもは優しい翔の手は、今日は力強く少し乱暴に菜々美の身体を這う。

「んんん……っ!」

 菜々美の後ろから中へと入ると今まで感じたことのない快楽が、菜々美の身体を走る。

「しょ……っ、待っ……て…」

 菜々美の言葉に翔は聞く耳を持たない。強く強く菜々美の中へと入っていく。


(ずいぶんと嫉妬をしてる。こんなことをしたって意味ないのは分かってる)

 分かってるが自分を抑えられない翔は、その思いを菜々美の中に吐き出していた。





    ◇◇◇◇◇




 隣で眠る菜々美の髪の毛に触れ、抱きしめる。

(無理をさせてしまった……)

 自分を抑えれなかった翔は、何度も何度も菜々美を抱いた。菜々美がぐったりしてもそれでも抱いた。

「ごめん、菜々美……」

 ここまで嫉妬するくらい、菜々美を独り占めしたいのだ。

 掛け布団の下から見える菜々美の肩。その白い素肌に、翔はまた欲情してしまう。

「菜々美……」

 首筋に吸い付くとうっすらと菜々美が目を開ける。

「翔……」

「好きだよ」

 そう言って唇にキスをする。

「……んっ」

「菜々美……」

「ダメ……」

 もう一度キスをしようとした翔を制する。

「もう……身体が……」

 本当にダルそうにしている菜々美を見て「ごめん」とひとこと言った。そして抱きかかえるようにして一緒に眠った。

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