第35話
かよの言葉は、菜々美の中にストンと入ってきていた。
(翔となら、大丈夫……?)
自分の中にある思いを全てぶつけることが出来なら、どう変わるのか不安だった。でも翔となら大丈夫と、かよは言った。
かよから見てそう思うくらい、ふたりは自然なのだろう。それに高校生の頃からの菜々美を知ってる。あの頃の菜々美の強い想いを知ってるから、ふたりを応援したい。
大人になって再会してふたりが付き合うことになったって聞いた時、かよは驚きと同時に嬉しかった。
胸に秘めていた菜々美の想いが、漸く叶ったんだと思ったら自分のことのように嬉しかった。
「試しに1ヶ月、暮らしてみたら?」
かよの提案に菜々美は頷いた。
◇◇◇◇◇
「お試し?」
夜になって、翔が菜々美のマンションに顔を出す。それはもういつもの習慣になっていた。
リビングで一緒に珈琲を飲むこの時間が、ゆっくりと流れる。
そんな時にかよに言われたことを提案してみた。
「一緒に住めるか、私には分からないの」
実家でのことがトラウマになってる菜々美からしたら、他人と暮らすことはとても勇気のいること。
そのことをちゃんと話して、その上で1ヶ月のお試し期間を提案してみた。
「うん。それでいいよ。菜々美の気持ちは分かったから」
誰かと暮らすことに不安な気持ちを持ってること。それは実家でのことが関係していると説明した菜々美に、翔はにっこりと笑って受け入れた。
「とりあえず、今度の週末からで大丈夫?」
菜々美の顔を見てそう言った。
週末。翔はアパートから必要最低限の荷物をスーツケースに入れて、菜々美のマンションにやって来た。
「寝室はひとつしかないから……」
そこまで言って菜々美はどうしようと俯いた。
「一緒に寝るしかないだろうねぇ……」
と、イタズラっ子のような顔をして翔は菜々美を後ろから抱きしめる。
確かにそれしかない。1ヶ月の間、ソファーで寝てもらう訳にいかない。
外で仕事をしているから、ソファーで寝ていたら疲れが取れなくなる。
顔を真っ赤にした菜々美は、ポツリと呟く。
「い、一緒の……ベッドを使う……しかないから」
「うん」
後ろから抱きしめたままの翔は、菜々美の頬にちゅっとキスをした。
「悪いな、ほんと」
寝室のクローゼットに翔のスーツを何着かかけて、部屋の隅には持って来た荷物を置いた。
「大丈夫……」
翔の荷物が置かれることによって、本当に一緒に暮らすんだと実感する。
今までは泊まっていくことがあった。だけどそれとはまた違う。
ふたりでの生活が始まるのだ。
「とりあえず、1ヶ月よろしく」
菜々美にそう笑った翔にコクンと頷いた。
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