第34話

「一緒に?」

 目の前のかよは、驚いて目を丸くした。

「まさかそんなことを言うとは思わなくて……」

 菜々美が思い悩んでいることは分かっている。誰かと一緒に暮らすことに抵抗あるのは、実家の問題があるから。

 母親とふたりで暮らしていた時はまだ良かった。だがそこに養父が入り、そのうち種違いの弟が出来た。その養父には行動を制限され、弟にはとは認められず、母親はそんなふたりの顔色を伺い、菜々美に助けを求めている。

 高校を卒業してすぐに一人暮らしを始めた菜々美は、奨学金使って大学へ通った。だが、小説家として名前が売れ忙しくなった菜々美は、休みがちになった。

 小説家として忙しくなってからは、弟には金を要求されることが多くなった。お小遣いをあげれば「これだけ?」と文句。養父からは「余計な金は持たせるな」と叱咤される。

 そんな養父と弟との関係を見て、母親は「ごめんね、ごめんね」と泣くばかり。


「あの家を……、思い出すから……」

 人と暮らすことに抵抗があるのは、そのことがあるから。

「菜々美」

 持ったコーヒーカップをテーブルに置くと、菜々美をじっと見た。

「中山くんとは上手くいってるんでしょ?」

「うん……」

「一緒にいて苦痛に感じる?」

 首を横に振る。翔といて落ち着くことはあっても苦痛には感じない。

「なら、大丈夫じゃない?」

「でも……」

「私だっていつまでもマンションここに来れるとは限らないよ」

 かよに彼氏が出来て、その相手と結婚でもしたら、ここにかよは来る頻度は減る。今も菜々美と翔のことを気遣って週末は来ることを控えている。


「中山くんが家事をやってくれるんでしょ?菜々美にとったらいい話だと思うよ」

 そうなのだ。家事をすることが苦手な菜々美からしたら、出来る相手がいることはとてもありがたい。

「だけど……」

「もう、さっきからそればっか」

 呆れてため息を吐く。それでもかよは菜々美の気持ちを理解はしている。

 


「大人になってからの初恋だからねぇ……」

 かよはポツリと呟く。

「え?」

「大人初恋って感じ」

 かよは菜々美を見て優しい笑みを浮かべた。

「何をするにも、どうしたらいいのか分からないんじゃないの?不安だしさ」

 かよが言うことは当たってる。全てが初めてのことで、どうしたらいいのか分からなかった。

 誰かと付き合うことも初めて。手を繋いだのも初めて。キスもセックスも翔が初めて。翔が他の女の人といるだけで嫉妬することも初めてのことで、自分で感情をコントロール出来なかった。


(こんなに拗れた感情を持つなんて……)


 家族とのことも拗れてる。だからこそ、他人と関わることが怖い。

「かよ……」

「きっと、大丈夫。中山くんなら大丈夫」

 かよは菜々美にそう言った。

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