第33話
菜々美にも嫉妬心があるんだと知った日から、翔は菜々美に必要以上に触れることが多くなった。
そんな翔の行動が、嬉しいような恥ずかしいようなそんな思いを抱える。
「菜々美」
キッチンに立つ菜々美を、後ろから抱きしめる。
「ちょ……っ」
びっくりして持っていた卵を落としそうになる。
「もう……っ、翔!」
「なに作るの?」
「か、簡単なものしか作れないよ!」
菜々美は翔をキッチンから追い出す。普段、料理はしない菜々美。食事はいつも適当に済ましてしまう。
だが、翔がいるとそうもいかない。
(とりあえず、目玉焼きくらいなら出来るかな)
冷蔵庫を見ても作れる材料は入っていない。
「目玉焼きくらいしか作れないや」
苦笑いする菜々美に「いいよ」と答える。
「私、本当に料理しないんだよね」
フライパンを出しながら言う菜々美の隣で、コーヒーカップにインスタントの珈琲を入れる翔は、菜々美の話を聞いていた。
「食べることに執着しないから、余計に作りたいって思わないのかも」
「じゃ今度一緒に作ろうか」
菜々美は翔の顔を見た。
「こう見えて料理はわりと好き」
にっこり笑う翔は、菜々美からフライパンを奪った。
「俺が焼くから」
「でも……」
「いいからいいから」
座ってなよと菜々美をキッチンから追い出す。仕方なく菜々美はダイニングテーブルに珈琲が入ったカップを置いた。
椅子に座り、キッチンの方を見る。翔は慣れた手つきで卵を割っていた。
「はい」
テーブルの上に置かれた目玉焼きは、崩れることなくキレイに焼かれていた。
「私だったらこうもいかないわ」
情けないけど、菜々美が焼いたら黄身が崩れていただろう。
「たかが目玉焼きだよ」
「その目玉焼きが無理なのよ」
情けない顔で翔に笑う。
「意外だな」
翔はそう言いながら菜々美の前の椅子に座った。
ふたりで簡単な朝食を済ませて、ふたりで片付けをした後、ソファーに座りテレビを見ていた。
「なぁ」
菜々美を抱き寄せる。
「ん」
「一緒に住まない?」
「え……」
顔を上げて翔を見る。
(今……、なにを……?)
何を言われたのか理解出来なかった。その為、菜々美は翔の顔をじっと見ていた。
「金曜日になると、こうしてずっと一緒にいるだろ?」
翔の話を黙って聞く。
「だったらもう、一緒に住んでしまった方がいいな……と」
菜々美の顔色を伺う。頭の中で言われた言葉が何度も何度も流れる。
「でも……」
「もちろん、生活費はちゃんと払うよ。それに、家のこともやるから」
「家のこと……?」
「うん。掃除も料理も俺がする」
「でも……」
誰かと住むということに抵抗がある。どんなに仲のいい親友でも、どんなに大好きな人でも……。
だからこそ、菜々美は返事が出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます