第27話
翔に寄りかかっていた菜々美はいつの間にかソファーで眠っていて、寝室から持ってきただろう掛け布団がかけられていた。
「目、覚めた?」
翔の声がした方を見るとテーブルに座っている翔がいた。
「飯、先に食ってた」
と、唐揚げを頬張っていた。
「気分は?」
「ん……」
「なんか飲む?」
「……ワイン呑みたい」
「お前なぁ……」
呆れた顔をして菜々美を見る。そして立ち上がり、菜々美にペットボトルのお茶を渡す。
「これにしときな」
「えー」
拗ねた感じで言う菜々美の頭をポンポンと手を置く。翔の癖のようなものかもしれない。
「よくそれやるよね」
起き上がった菜々美は翔を見上げる。
「あぁ。なんか、癖だな。おれ、年の離れた妹がいるから」
「妹?」
(初耳……)
高校生の頃もそんな話は聞いたことなかった。
「何歳なの?」
「今、中3」
「そうなの?」
そんなに離れた妹がいるなんて知らなかった……と、菜々美は翔を見る。
「暫く会ってないけど、生意気だよ」
「うちの弟も生意気」
「まだ小学生だっけ?」
「うん」
そこからふたりはお互いの妹、弟の話をした。
どんなところが生意気なのかとか、こういうところは可愛いとか、そんな他愛もないことを話していた。
「ほんと、下って生意気だよなぁ」
「ほんと」
ふたりは顔を見合わせて笑った。
「んじゃ、今日は帰るな」
スッと立ち上がって翔は菜々美に言う。平日はちゃんと自分のアパートに帰る。
「あ、またみんなで会おうって話が出てるんだけど」
菜々美の顔をじっと見ては伺う。
「ん~……。多分、平気。私が一番みんなに合わせやすいんじゃない?」
「分かった。日程決まったらまた教える」
「うん」
そう答えた菜々美を見ては翔は何かを目で訴えていた。
「なに?」
「あ──……」
「ん?」
見上げるその顔が可愛いと思っていた翔は、菜々美を抱きしめた。
「翔……」
安心感を得るためにぎゅっと抱きしめる。
「お前は頑張り過ぎるとこがあるから。遊びの前に仕事を終わらそうとして根詰めるなよ」
キョトンと翔を見る。
(私のこと、なんでそんなに分かるの?)
高校の同級生で、よく一緒に遊んでたりしたけど、そこまで知り尽くされていたことにビックリだった。
「じゃあな」
頭をポンポンと軽く叩く翔に「うん」と笑顔を返す。
いつの間にか一緒に過ごす時間が当たり前になっている。
それでもまだまだ慣れないことの方が多い。
それに養父からは反対されている。そのことを翔も知っているが、ふたりはそのことに触れない。
自分たちの時間を過ごしていた。
◇◇◇◇◇
「おー!来た来た」
待ち合わせ場所の駅前で晴斗が手を振っているのが見える。かよは晴斗の隣に立っていて、他の元クラスメートたち数人もこっちを見ていた。
「待たせたな」
翔が何故か格好つけて言ってる。その翔にみんなは爆笑していた。
昔っからそうだった。クラスの中心に翔と晴斗がいた。翔がフザけると晴斗もそれに便乗して、それが伝染するかのようにクラスの男の子たちがフザけ始めるのだ。
その光景を女の子たちは笑ってたり、呆れてたり一緒になってフザけてたりと様々だった。
菜々美とかよは笑ってるだけだったが、そんな時間も楽しいものだった。
「同窓会の時、悪かったなぁ」
菜々美に声をかけてきたのは、クラス1の秀才だった中村秀平。
「ん?」
「翔を任せてしまっただろ」
「あぁ……」
「女性に酔っ払った男を任せるなんて酷かったよなぁ」
「だよなぁ」
男性たちは次々と言ってくる。それに女性たちは頷く。
「ほんとに、よくこんな美人だけに任せたわ」
「お前らだって完全に無視だったじゃんか!」
「だって女の力では無理だよー」
あの日の翔の状態は酷かった。女性ひとりではどうにもならない。実際菜々美もタクシーの運転手さんに手伝ってもらってマンションのエレベーターにまで行ったのだった。
今日集まったのは翔と菜々美、かよに晴斗、秀平を含めた10人。その10人で遊園地に行こうとなったのだ。
結構な人数になってしまったから、電車で行こうとなりこうして駅前で待ち合わせとなったのだ。
同窓会の話をしながら、電車に乗った。その間、翔は菜々美の隣をキープしていた。
「翔と菜々美って付き合ってるの?」
加賀見拓馬がふたりの状態を見て聞いた。翔は「まあな」と深く考えないで答える。普通に答えた翔とは反対に、菜々美は恥ずかしさから拓馬の方を見れなかった。
「ふふっ。菜々美ってば可愛いー!」
かよはからかってははしゃいでいた。
かよにとって菜々美のそういう姿はからかいの対象だった。菜々美にとって翔は初恋の人であり、忘れられない人。そんな人と長年の想いが通じて今、付き合っているんだからやっぱりかよにとっては嬉しいのだ。そりゃからかいたくなる。
「さてっと行こう!」
目的地に着くと拓馬が真っ先に走り出した。
「アイツはガキか」
お調子者の拓馬を見てみんなは笑っていた。
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