第3話
トイレから戻ってきた菜々美は、酷い現状に驚いた。
菜々美が座っていた場所には晴斗と翔もいたが、その翔がぐたーとしていた。
「どうしたの?」
「こいつ、呑み過ぎたらしい」
「え?そんなに呑んでたっけ?」
そう言うと翔に「大丈夫?」と声をかける。
「あ……、ん……」
言葉にならない感じで答える。
「どのくらい呑んだのよ」
晴斗に聞いてみる。その晴斗も呑んでるかから翔が呑んだ数まで覚えていない。
だけど、菜々美が覚えてるだけでも5杯は呑んでる。
(たった5杯でこうなったの?)
酒豪な菜々美からすれば不思議だった。
「高梨、高梨」
晴斗が菜々美にニヤッと笑った。
「翔はお前に『呑みすぎちゃった~』とかやって欲しかったんだよ」
ん?
ん?
ん?
「は?どういうこと?」
翔を挟んで晴斗に聞く。
「今の高梨は、ど真ん中なんだよ」
「なにが」
「翔の好きな女のタイプ。美人系だからよ」
「そうそう!高校ん時もそういう系好きだったよなぁ」
「付き合ってたの、どっか女子大生じゃなかったっけ?」
男子たちは次々に語り出す。
菜々美もそれは覚えていた。女子大生と付き合ってるっていうこと。それを聞いた時、ショックを受けたのを覚えてる。
「にしても……」
晴斗は翔を見る。
「これ、どうするよ」
翔は座ってられなく床に寝転んでいた。座敷にいたからまだ良かったが。
「それに比べて高梨はどんだけ呑むんだ」
菜々美が空けたグラスはもう10杯は軽く超えていた。それなのに呑んでいない時となんら変わらない。
「菜々美は枠だからー」
横から言ったかよもかなり呑んでいた。
「枠?」
「ザルじゃなくて枠ね!引っ掛かるところがないくらい呑むのよ」
「ちょっと、かよ!」
10杯は呑んでるのに平気な顔してる菜々美は、逃げ出したくなってしまった。
「……きもぢ……わる………」
床で寝転んでた翔は、気持ち悪そうだった。
「中山くん。大丈夫?お水もらおうか?」
そうは言ったがそれよりも吐きそうな感じだった。
「ちょっと、誰かトイレ連れていってあげてよ!」
菜々美はそう言うが、誰も動かない。仕方なく菜々美が翔を起き上がらせた。
「ほら、トイレ行って!」
ヨロヨロと立ち上がる翔が心配でトイレまで着いていく。トイレの前に行くと中へ押し込む。
ここはこじんまりとした居酒屋だから、トイレはひとつしかない。男女別れてはいないからこういうことが出来る。別れてはいたら入っては行けないだろう。
そんな菜々美は翔の背中を擦っていた。
◇◇◇◇◇
「中山くんを送ってくる」
暫くトイレから出て来れなかった翔は、ぐったりとしていた。そんな翔を見かねて家まで送るという、菜々美。
「平気か?」
「変わってくれるの?」
と晴斗に言うが「幹事だからなー」と笑う。心成しか晴斗がニヤニヤしているようにも見える。何かを企んでいるのではと思ってしまう。
「タクシー呼ぼっか」
晴斗はそう言って店の店員にタクシーをお願いしていた。
晴斗が外に出てタクシーが来るのを待ってくれていた。その間、菜々美は翔の様子を見ていた。なぜかみんな、自分たちが楽しめばいいって感じでこっちを気にしなかった。かよでさえ、久しぶりに会うクラスメイトたちと話すのに夢中だった。
「高梨!」
呼ばれると、翔の腕を掴み立ち上がらせる。
晴斗と一緒にタクシーまで翔を運ぶ。
「悪いな、高梨。本当はおれが連れて帰った方がいいんだろうけど……」
「幹事だしね」
「他のやつらもあてにならないし……」
苦笑いの晴斗に「大丈夫。まだ仕事残ってるからちょうどいいわ」と告げる。
「じゃまた!」
タクシーのドアが閉まると翔に「住所は?」と聞く。
だが酔っぱらっていて答えられない。何度も何度も聞くが全然ダメだった。
「はぁ………」
大きなため息を吐いた菜々美は自分のマンションの住所を告げる。
(放っておくわけにはいかないもの)
窓に凭れかけてる翔を見てまたため息を吐いた。
◇◇◇◇◇
マンションの前まで来ると運転手さんに手伝ってもらいながら、タクシーから翔を下ろしどうにかエレベーターまで向かった。エレベーターに乗り込み菜々美の住む5階まで行く。その間も菜々美の肩に凭れている。
半分眠ったような状態。だけど、起きてはいる。
「もう……っ。酔っぱらいは重い!」
そう言いながらも5階に着くと自分の部屋まで翔を引き摺っていく。
ガシャン……っ!
ドアを開けると鈍い金属音が響く。もう夜も遅いから本当に響く。
ドサッと翔を玄関に倒れ込むように下ろすと、翔の靴を脱がせる。
「ほら、ちょっと起きて!」
目が覚めたら自分の家に帰ってもらおうと必死だった。何度か声をかけるけど、翔は動く気がない。
「もうっ!」
仕方なく翔を玄関に放置して、仕事部屋へと向かう。仕事部屋は本棚に囲まれた部屋だった。その中央に机がありパソコンが置かれている。ここで菜々美は
本に囲まれてる生活は菜々美の憧れだった。何よりも本が大好きな菜々美は、学生時代、休み時間になるとよく図書室に入り浸っていた。本屋や市の図書館にもよく行くくらい、本が大好きなのだ。
それは小説だけに止まらず絵本や漫画なども同じ扱いだった。一時、小説だけでも600冊は越えるくらい所有していた。
どんどん増える本を前に独自にルールを作ったくらいだ。
荷物を置くとパソコンの前に座る。パソコンを起動し、今書いている小説のフォルダを開いた。
だけど、やっぱりあるシーンで行き詰まる。それもそうだ。未経験な菜々美にとって、そのシーンを書くのが難しい。
「やっぱり、こういうのはやめた方がいいのか……」
ポツリと呟き、パソコンを閉じるしかなかった。
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