三日目

第10話 十八回目

「ただいま一会いちえさん」

「おかえりなさい奉野ほうの君」


「鑑定の石板を使わせてください」


「いいですよ、じゃぁ魔石をだしてください」


「はーい」


 受付嬢に言われ、ザラっと受付台にあるトレーに魔石と呼ばれる石を出す少年。


「これでお願いします」


「はい、えーと……レベルの低いスライムの魔石11個……毎回同じ個数よね……」


「一会さんに心配かけないように頑張って百円ずつ増やしています!」


「百円じゃなくてもいいのよ?」


「それで買取額は探索者カードに預け入れでお願いしま~す」


「……一日で何度も帰ってくるから一応カード残高は増えてはいるけど、これじゃご飯代にも困るわよね? ……今日はこのまま鑑定が終わったらその辺りの話を聞くからね?」


「え……」


「はい鑑定どうぞ」


「あーい」


 高校一年生くらいの新人探索者の少年が鑑定の石板に触れると、石板が光り出して触れている者の情報を映し出す。

 石板に表示された情報は。


 奉野(ほうの)天人(たかと)

 レベル1


〈体力〉0 〈魔力〉1

〈力〉0 〈器用〉1 〈速さ〉1 〈精神〉1〈幸運〉0

 スキル

〈奉納〉


 だった。


「外れか……それじゃ一会さん、また――」

「待ちなさいっての! 話を聞くって言ったわよね? JDDA職員の注意喚起を無視すると? どうなるって言ったっけ?」


「職権乱用とか、一会さん彼氏持ち美人なのにやってる事があくどいっすよ!」


「ちゃんとご飯を食べているか聞くだけの話でしょーに、それで、百円貯金でどうにかなるの?」


「えーと、JDDAがお勧めしているコンビニがあるじゃないですか? 探索者用の装備とか売っているお店の」


「ああ……あるわね、上層部が天下りばっかりなので商品の内容が保守的な物しか置いてないあのお店ね」


「……一会さん、関係者なのにそんな事言っていいの? ここって一応監視カメラとかついているんですよね?」


「いいのよ、あそこは一応建前として民間のお店って事になっているのだから、それで、探索者用コンビニ、通称『タンビニ』がどうしたの?」


「ええっと、タンビニで売っている探索者用の携帯食が安くて栄養満点なので、それを食べてますね」


「……待って? あの微妙な味で有名なカロリーバーを主食にしているの!? 『長時間探索のお供に最適!』とかいう胡散臭い宣伝文句で売っている、あの?」


「実際に値段も安いし栄養満点っぽいですよ?」


「確かに栄養は優れているって噂だけど、あれを三食食べているだけで、食欲が失せてダイエットになるって噂が出るくらい微妙な味なんでしょ? JDDAの職員でも誰一人として買う事がないからね?」


「そんなに人気ないんですか? 栄養分と値段の対比を見るに費用効果的に優れていると思うんだけどなぁ?」


「私は味の事を言っているのだけど……それに三食カロリーバーなの? いくら栄養豊富だからといってお野菜とかお肉や魚も食べないと駄目でしょうーに」


「確かにあれだけだと野菜が足りない気はしているので、そこだけはちゃんと補完しています」


「……今朝、ダンジョンにやってきた時に生ニンジン一本丸かじりしてたのって……まさか……」


「足りなそうな野菜分を補完するためですね! 一本四十六円のニンジンでした」


「あら? 意外とお安いわね、それ何処のお店で買ったの?」


「次帰ってきたら教えてあげますよ、もうダンジョン行っていいですか?」


「え、ええ、いいわよ行ってらっしゃい」


「行ってきま~す」

 ……。

 ……。


 若い探索者が受付の側から去り、それを見送った受付嬢の表情は、普段通りであった。


 そして、周囲に誰もいない受付……ダンジョンの入口を覆った建物の中にある宝くじ売り場を大きくしたような受付場にて独り言をつぶやく。


「あの微妙な味のカロリーバーを毎食? なんかそういうダイエット動画が昔あったわよねぇ……奉野君の体重変化の様子を観察してみようかしら? もしかしたら本当に痩せるかもだし?」


 人があまり訪れない雑魚ダンジョン受付の周辺にはひとけがまったくなく、自分の二の腕を触って脂肪の量を確認している受付嬢に何か言う相手すらいなかった。

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