第11話 十九回目
「ただいま
「おかえりなさい
「鑑定の石板を使わせてください」
「いいですよ、じゃぁ魔石をだしてください」
「はーい」
受付嬢に言われ、ザラっと受付台にあるトレーに魔石と呼ばれる石を出す少年。
「これでお願いします」
「はい、えーと……レベルの低いスライムの魔石12個ね、あら一つ増えている? どうしたの奉野君、体の調子でも悪いの?」
「魔石一個増えたら何故体の調子が悪いと思われるのか謎なんですが……さっき一会さんと会話して、もう少し食事に気をつけるべきだと思ったんですよ」
「それで百円貯金を二百円貯金に増やしたの?」
「初日はそもそもここに来る時間が遅かったんで六回しかダンジョンに潜れませんでしたけど、昨日は十二回潜れたじゃないですか?」
「……そうね、朝から七時間くらいずっとダンジョンとここを往復していたわね……日の落ちる前の午後4時くらいに奉野君が帰るから、ここのメイン客層である副業探索者達とは時間がずれるのよね」
「へー、だから他の探索者に会わないのか、それならこれからも同じ時間にきますね」
「私の暇な時間が減って嬉しいやらなんとやら……まあいいわ、それで二百円貯金にしたのは……カロリーバーをやめてお弁当でも買う事にしたの?」
「一日十二回の百円貯金だと、カロリーバー十本と生野菜三つ買っちゃうと終わりなんですよ」
「えっと、一日千二百円だから……あのカロリーバーってタンビニでいくらだっけ?」
「味によって変わりますけど、ノーマルのやつが税込みで七七円だったかな? 高いやつだと九十九円とか?」
「平均で八十として八百円、それと野菜が三つ……飲み物代とかを合わせて……えっと……」
「あ、飲み物はそこの冷水器っす」
「……計算したらやっぱり奉野君の生活はおかしい事に気付いたわ、これはちょっとお説教第二回の開催が必要かしら?」
「待ってください! だから二百円貯金にしたんですよ、ほら、二倍になれば余裕が出るでしょう?」
「ふむ……まぁ、ちょっとは余裕が出る……のかな?」
「出ますってば! 一会さんだってお給料が倍になったらすっごい余裕でちゃいますよね? 彼氏と旅行とかいけちゃいますよね?」
「彼氏と旅行? なんでそんな話に?」
「え? 世の恋人たちはお金に余裕できたら旅行とか行ったりしません? それとも一会さんの彼氏は旅行が苦手とか?」
「え? あ、あー、そ、そうね? でも私の彼は引き籠りなので旅行はいかないかな?」
「え? あー、えっと……ま、まぁという訳でこれからは貯蓄もできちゃう二百円貯金にしましたので安心してください一会さん、では鑑定の方お願いします」
「何故急に話を変えたのかしら? まぁはい……どうぞ」
「どもっす」
高校一年生くらいの新人探索者の少年が鑑定の石板に触れると、石板が光り出して触れている者の情報を映し出す。
石板に表示された情報は。
奉野(ほうの)天人(たかと)
レベル1
〈体力〉1 〈魔力〉0
〈力〉1 〈器用〉0 〈速さ〉0 〈精神〉0〈幸運〉0
スキル
〈奉納〉
だった。
「外れか……それじゃ一会さん、またダンジョンに行きます」
「はい、気を付けて行ってらっしゃい」
「行ってきま~す」
……。
……。
若い探索者が受付の側から去り、それを見送った受付嬢の表情は、普段通りであった。
そして、周囲に誰もいない受付……ダンジョンの入口を覆った建物の中にある宝くじ売り場を大きくしたような受付場にて独り言をつぶやく。
「ふむ、あの子さっき何で急に話を変えたのかしら? 二百円貯金に後ろめたい事でも? ……あれ? わたしさっき……あれ? 私の彼の設定が引き籠りになってしまってない? やらかしたかも?」
人があまり訪れない雑魚ダンジョン受付の周辺にはひとけがまったくなく、自分の言動を思い出している受付嬢に突っ込みを入れる相手すらいなかった。
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