天使を殺した

目が覚めた。

 見知らぬ白い天井だ。見渡すと病院だということが分かった。親が救急車を呼んだのだろうか。だとしたら迷惑をかけた。

 煙の匂いが全く違い、目眩がした。僕は映画などでよく見る患者衣を着ていた。

 

              ○

 

 僕は確かにあの日、唯人を殺した。

 中学時代の先輩の家に遊びに行ったのだ。その家が唯人の住んでいるマンションと同じだった。先輩と夜まで遊び、マンションの部屋を出て、エレベーターに行くとそこに唯人がいた。唯人はゴミを見るような目で僕を見た。ゴミはお前なのに。

 殺せるタイミングだった。今までの怒りを鮮明に思い出した。

 唯人が僕に向かってベロを出し、中指を立てた。

 その瞬間、僕は天使を殺したのだ。

 マンションから突き落とした。

 スパ――ン、と唯人の体が堅いコンクリートに叩きつけられた。

 唯人は死んだ。僕が殺した。あの日。

 全てなかったことにして、家に帰り、眠った。

 その日、天使の町に来たのだ。

 

             ○

 

 病院から退院し、一週間が経過した。あれから天使の町には行かなかった。

 今日は土日だ。

 罪を自白しに、警察署へと足を運んでいた。

 僕が天使殺しだからこそ、天使を殺さないように生きるべきなのだ。

 警察署に着いた。警察署を目の前にし、きびすを返した。

 僕はこの瞬間、天使を殺した。

 

 

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天使殺し @moriitsuki

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