ご飯を食べさせてもらう
(重い打突音が二、三度響いたあと、止む)
ごめんごめん。ちょっと熱くなっちゃったね。
でも、君に水を飲ませてあげられて良かったよ。水不足って命にかかわるって話だし。そうやって生きててくれるだけでありがたいんだから。
なんか、怯えた目をしてるね? なにか怖いこととかあったの? ないよね?
うんうん、そうだよね。ここに君を怖がらせるものなんてなに一つないんだから。
さてと。喉も潤したことだし、ご飯を食べようか。お腹も空いてるでしょ。君が動けなくなってから随分と長い時間が経っているし。水だけじゃなくて、なにか食べないと、人間って生きていけないみたいだし。
だから、ほら。これなぁんだ。
そうです。おにぎりです。しかも、なんとですねぇ。私の手作りなのです。はい、パチパチパチ。
……(ドスの利いた声で)拍手してよ。って、ごめんごめん、手が塞がってたね。私の早とちりだった。じゃあ、お食事しようか。いっただきまぁす。
(少女の咀嚼音がひとしきり響いたあと)
うぅ~ん、おいしい。じゃあ、はいどうぞ。
なんか、不思議そうな顔してるね。まさか、私がご飯を上げるのを渋ると思ったとか? 心外だなぁ。私、そんなにケチじゃないよ。なんか……文句がありそうな顔だね。なんでもない? そっ。だったらいいけど。
じゃあ、どうぞ。どう。おいしいでしょ。私との間接キス。
(咳き込む音)
大丈夫? でも、偉いよ。お水の時と違って零してないから。でも、どうして咳き込んだのかな。もしかして、私の間接キスが気持ち悪かったとか? だったら、お仕置きだけど。
おにぎりの中身? えっとね。たしか、センブリ、だったかな。すっごく体にいいって聞いたから、おにぎりに入れたらいいかなって。だから、ほら遠慮せずに、たくさん食べてね。
(咳き込み音と渇いた打撃音。その合間には少女の、床に落とすんじゃねぇよ、とか、食べ物を無駄にすることはクズのやることだぞ、という怒鳴り声が挟まる)
ふぅ。けっこう食べるのに時間かかったなぁ。この分だと、まだまだかかりそうだね。
だって、君、まだまだお腹空いてるでしょ? 私は少食だからおにぎり半分くらいで足りるけど、君はたくさん食べないと体がもたないじゃない。だから、まだまだ、いっぱいおにぎりを握ってきてるから、たんと食べるといいよ。
おにぎりの中身ぃ? そんなにさっきのセンブリが美味しかった? けど、残念。センブリおにぎりはあれで最後なんだよねぇ。
後はね、くさやと、あんこと、ワサビと、牛の睾丸と、タガメ、とかかな。どれにどれが入ってるかは、私にもわかんないや。
どうして、この具かって。う~んと健康そうなのと、昔お正月にやってたバラエティの大福の中身とかを参考にしたかな。だって、お正月ってことは縁起物だし、なんかめでたいじゃん。特にタガメとかは五年連続で食べた人がいるくらいの縁起物だよ。
もう、お腹いっぱい? そんなわけないじゃん。おにぎりの四つや五つ、ペロリでしょ。遠慮なんてしないでよ。もちろん、ただだから。けど、ご飯を無駄にしたら、その時は……(低い声で)覚悟しとけよ。
(しばらくの間、殴打の音と、いいから食えよ、とか、床を舐めてでも米を残すなよ、という怒鳴り声が響き渡ったあと、フェードアウト)
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