36:パーティーを結成するらしい

「さて、何故かを説明する前に……部屋に入らなければならないね」


「とはいえ、明らかに歓迎ムードじゃないよねぇ」


「……サラ、いったい何を考えてるんだ」



 このセキュリティはサラがかけたもの。つまり、サラは意図的に二人を追い返そうとしている。


 事前に連絡したって言ってるし、これは不当な扱いといえるのではなかろうか!


 ……というか、かがりさんはともかくとして、沙樹先輩に万が一があればお金がヤバエグいことになる。


 なんとしてでも突破しなければ。



「……アマネ、疲れたから強引に行っていい?」


「え? それができるなら……」


「まかせて。――氷壁アイス・ウォール



 氷の壁が地中からせりあがってきて、俺たちを持ち上げる。


 そして、アルが呪文を再びつぶやくと、俺の部屋への道が出来上がる。


 ……なんという強引さ。流石です、ご主人様。



「それは反則じゃないかな?!」



 部屋に入るところで、サラが何か言ってきたけど、とりあえず無視しといた。


 いくら男友達の部屋に女子が入ろうとしているとはいえ、邪魔はいかんよ邪魔は。


 馬に蹴られて死んでしまうからね。









「それで、なぜこんなところに?」


「何故って、黎明の自室にいるままでは研究ができないからね」


「研究って……」


「もちろん、白薔薇ちゃんと君の、だよ」



 あ~と納得はした。


 確かに黎明から沙樹ちゃんが出てくる手間を考えれば、このアパートに住んだほうがいいよね。


 ……ってなるか! なるわけないだろそんなもの!



「これで研究も捗ってラッキー、君も研究を手伝ってくれたらお小遣いをもらえるしでウィンウィンだろう?」


「え、お小遣い貰えるんですか?」


「この前の5億円の契約の中には”魔法に関しての技術提供”としか書いてなくてね。不覚だよ……その紋章、ただのアクセサリーってわけではないのだろう?」


「……わかりますか?」


「もちろん。動画で見た君の動きと、今日の動きに明確な違いがあったからね」



 お見通し、ということか。


 でも詳細な内容については流石に確認できていないようだ。


 ……まあ、これでバレてたらそれはそれで恐ろしいので、沙樹先輩が人間でよかった。


 とまぁ、うん。沙樹先輩がここに来る理由については一定の納得が出来た。



「で、何故かがりさんがここに?」


「黎明でやることなくなっちゃったんだよね」


「え? それはどういう……」


「あ、そっか。知らないんだね~」



 ころころと笑いながら、かがりさんはDSデバイスを見せてくる。


 それはどうやら隠し撮りされたものらしく、少し手元がぶれている。


 これは……黎明の本部の中?



「よくわからないんですけど、これ何か置いてあるみたいですが……?」


「会長がね、白薔薇ちゃんにドハマりしちゃってさ~。しばらくの間休みを取るってことで、黎明は休止状態になってるんだよね~」


「はい?!?!」



 なに? え、どういうこと?


 あの神腕が、アルにドハマりしてるってマジ?


 ……でも言われてみれば、確かに遠目に見えるフィギュアなんてアルに見えてくる気がしないでもないというか……。



「まぁ、会長休み暫くとってなかったから……一か月くらいは黎明はお休みすると思うよ~」


「……それで、暇を持て余したからここに?」


「そーともいうー」


「なんて適当な……」



 とはいえ、国内最高戦力のうち2人がこんなところに居ていいのだろうか……?


 有事の時とかどうするんだろう?



「要らない心配さ。そもそも黎明には――あの男がいるからね」


「……アズマさんですか」


「そのとーり! 正直私達二人居てもアズマには勝てないからね~」



 国内最強は流石、って感じだ。



「まぁ。組織が機能してるなら問題はないと思うんですが……」


「だから、しばらくは暇つぶしがてら……君と一緒にダンジョンに行こうかなって思うんだよね~」


「私も同行したいと思っている。もちろん、君たちの邪魔はしない。ただ君たちの戦いを観察したいのさ」


「……」



 ヤバい、いよいよ頭が追い付かなくなってきた。


 どうしよう。アル的にはどうなんだろう。



「アマネの経験値になってくれそうだし、やろう」


「アルがそう言うなら、俺としては拒否する理由はないな」



 俺たちのやり取りに、沙樹先輩もかがりさんも頷いた。



「……というわけで、明日もダンジョンに向かうのかを聞いておきたいんだけど」


「アタックしようと思ってます。ただ一つ気がかりなことがあって……」



 俺は、沙樹先輩とかがりさんに今日あったことを隠すことなく伝えた。


 すると、沙樹先輩は「まぁ当然だろうね」と特に驚くことなく頷いた。



「ダンジョン内にその手の悪漢はいるものだ。加えて、白薔薇ちゃんみたいな美貌の持ち主がいるのであれば、なおさらね」


「驚きはするけど、ありえない~ってわけじゃないよね」


「……そっか。これからも襲われる可能性があるけど、問題はないかを聞いておきたかった」


「まっかせなさーい! かがりちゃんが、そんな悪い奴全員蹴散らすよ~?」



 とび色の髪の毛をぴょこぴょこと跳ねさせながら、かがりさんが腕まくりする。


 ほほえましい様子だが……かがりさんは本当に強いトラベラーだ。


 あの程度の悪漢なら、十秒もあればチリにしてしまうだろう。



「はは……頼みました……」



 これなら心配はないな! そう思い込んどこう!


 何も心配はない! ガハハ!



「……楽しみ、だね?」


「そうだね~~~~」

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