23:買収されるらしい


「――さて、ようこそ私の部屋へ。好きなところに座ってくれたまえよ」


「……座るたって、なあ」



:座るところなくてワロタ

:マジで画角一杯に本がある光景ヤバすぎる

:異世界か何か?

:本の虫ってレベルじゃないだろ、これガチで全部読んでるのか……?

:古本屋で売ったらひと財産になるだろ



「確かに、これだけ大量の本があるならひと財産になりそうだよな」


「残念だけど、ここにある本は私物ではないんだよ。私の一存で売るなんて決められないんだ」


「ギルドの本ってことですか」



 沙樹さんは「その通りだよ」と満足げに頷く。


 ……どうやらこの人、自分が投げかけた質問へきちんと返されることが好きなようだ。


 俺の金儲けセンサーがささやいている。悪い男に引っ掛かってエグいハマり方するタイプだこれ、と。



「ここあたりなら、座れるかな」


「……本当にこれくらいのスペースしかないんですね」


「自慢ではないが、部屋の汚さ日本第一位も私だと自負しているよ」



 本当に自慢ではない。誇らないでほしい。



「さて、話をしようじゃないか」


「あの、沙樹さん。一ついいですか」


「なんだい?」


「……距離感、近すぎませんか」



 俺が腰を落とせば、その上に沙樹さんは腰かけてくる。


 高い体温と、紙のにおい。奥に隠れた女の子特有の甘い匂いがしてエグい。


 ……なんでこんな距離近いんですか?



「仕方がないだろう、座れるところが無いのだから」


「俺じゃなくてアルの上に座ったらどうなんですか……!」


「……申し訳ないけど、白薔薇ちゃんの話のほうがよく聞きたくてね。話すときは顔を見たいんだ、私は」


「ここでもおまけ扱いなのマ?」



:草

:うらやましいけどかわいそう

:こんな複雑な気持ちになることある?

:沙樹ちゃんと知らない男がくっついてる……

:さえない男なのになんでこんな周りに美少女が集まるんですか?

:いや、これどう考えても”白薔薇”ちゃんに引き寄せられてるだけだろ

:おまけチャンネルに改名しようぜ



「おまけ扱い、泣けるぜ」


「もちろん……君にも興味がないわけではないよ?」



 どろりとした視線が向けられ……いやこれ俺に対してじゃない、俺の右手に刻まれた紋章に対してだ。


 うわ、ここまで色気もなんもない密着初めてだ。なんか悶々としてる俺がバカみたいじゃん……。



「まずは要件から聞こう。配信を開いていたから大体は察しがついているけれどもね」


「見てるんですか……じゃあ話は早いですね。俺は”黎明”に金銭を要求します」


「救援に着たにもかかわらず手を出さなかったからね。恩着せがましく配信という対価を要求しておきながら、手を出さなかったとは何事か――ということかい?」


「その通りです」


「ほむ……」



 沙樹さんは顎に手を挙げて悩む。……そして、いいことを思いついたとばかりに指を一本たてると、こちらを見る。


 そして、したり顔で提案。



「――5億で買おう」



 五億で買うえ~?!

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