22:ロリ研究者に導かれるらしい
「こんにちは」
:1日3回行動マ?
:こんにちは
:美少女ちゃん居ますか?
:美少女ちゃんはいません。
:ザ○レイはいるかもしれない
:本当にいたらどうするんだよ
「関係ない配信者の名前出すのやめときな~」
:正しい
:正しい
:正しい
:正解!w
:うんちの音!
:美少女ちゃんが画面に居ないと人間生活おわるナリ……
「さて、本日は、といいますと――ここに来ています」
目の前に存在する、ドデカ建物。
格式高い洋風の館、ここがギルド”黎明”の本拠地だ。
ちなみに俺たちが出てきた場所でもある。
”黎明”前で生配信をする人間はあまり珍しくはない。なので、黎明の構成民もまたかーみたいな軽い感じて見ている。
:出た、”黎明”配信
:多いんだよな、これをする奴
:インタビューでもするんかw
:駆け出し配信者がよくやるけどつまらん奴
「インタビュー配信はやったよ。第三回配信くらいで。ちな視聴者ゼロでインタビュー拒否されて数分で配信終了」
:草
:草
:草
:草
:アーカイブ見に行ったらガチで草
まぁ、それくらいポピュラーで典型的なネタでもある。
”黎明”はかなり配信に寛容だ。別に取材はしてもかまわないと公言しているし、近隣の住民へ迷惑をかけないのであればいくらでもどうぞ、というスタンスだ。
だからこそ、俗に言う”黎明”配信……まぁ簡単に言えば”黎明”構成員相手に何かしらの問答を仕掛ける、という配信がバカほど流行った時期がある。
かつてのメントスコーラみたいなムーブメントだ。
「で、今回俺がここに来た理由を申し上げますと……実は、金をたかりに来ました」
:え?
:え?
:草
:ワロタ
:なんでそうなるねん
:勇者過ぎるだろ
:今笑い過ぎて顔無い
「勘違いしないでほしいんですけど、これは正当な要求であり、正義の執行でもあります」
:金をたかるって宣言してる時点で、正当でも正義でもない定期
:正義ではないだろ 少なくとも
:だいぶアウトローよりの配信だけど大丈夫?
:てか美少女ちゃんまだ?
:”黎明”かわいいね
:概念愛好ニキネキも居ますと
「まぁ、話は”黎明”に入ってから行うとしよう。俺の配信者……いや、貧乏人としての意地を見せてやる」
息まいて”黎明”へと入ろうとするが、流石に警備員に止められた。
いやまぁそりゃそうだ。取材はしてもかまわないが、機密情報を取り扱う可能性がある内部への侵入はそうそう許されるものでもない。
かつてテレビ局が”黎明”へ立ち入った際は、マイクのみの持ち込みが許された。しかも、録音されたデータは”黎明”側が編集したものしか使えなかったらしい。
それくらいセキュリティが厳重なのだ、通れるわけが――。
「通してやれ」
後ろから、凛とした声が響いた。その声に、コメント欄が非常にざわついた。
:この声は……!
:誰?
:え、何?
:マジか、まさかこんな放送で姿を見れるなんて思わなかった
:沙樹ちゃーん!
:沙樹ちゃん警報沙樹ちゃん警報
:え、なにこれは(ドン引き)
コメント欄のざわつきに困惑していると、警備員さんが思いっきりびっくりしたような表情で飛び去った。
何を見たんだろう、まるで存在しないものでも見てしまったかのような、そんな感じの驚き方だ。
ゆっくりと振り向けば――目の前に、藍色の瞳がいっぱいに映った。
「アマネくんだね?」
「え。あ。はい」
「――君を”黎明”の中へ招待しよう。ようこそ、我がクランへ」
にこりと笑って見せるが、あまりにも不器用な笑い方。瞳の奥はどろどろと濁っていて、こちらをまるでモルモットでも見るかのように見つめている。
……ただ、あまりに愛嬌がある。藍色の瞳に、ダークブラウンの髪。鈴の音を転がすような声。ゆるふわっとした感じで言うと、アルに近しい雰囲気。
決定的に違う点といえば、背丈の低さだ。まるで小動物のようだ、と思うほどには身長が低い。
正直この人が誰だか見当がつかない。それなりにダンジョン関係者には詳しいつもりだったけど……。
「驚かせてしまったかな。いやはや、実に性急だとは思うのだがね、君には聞いてみたいことがあったのだ」
「えと、君は……?」
「私は沙樹。”黎明”の副ギルドマスターだ」
クマの残る笑顔で、俺は”黎明”内部へと案内された。
■
:おいおい、黎明の中を見れるなんて
:感動してる
:まさかこんな場末の配信で見れるなんて
:てか、本当にいいのかこれ……
:黎明って国防にもワンチャン関わってるって言われるけど……
「……あの、コメントの反応が尋常じゃないくらい怖いんですけど」
「ああ、気にしないでくれたまえ。別に問題はないよ。……それに、私が歩くと何故か回りが静かになるんだ」
「へ、へぇ……」
周囲を見渡すと、確かに静かだ。他の所からは人の声が聞こえてくるのに、沙樹さんの周りではまったくしない。
通りかかった職員を見れば、驚いたかのように目を見開いて、次いで怖がるように柱の陰に隠れた。
……この人、いったい何をしたんだ?
「さて、案内する前に要件を聞こう。この部屋に入ってくれたまえ」
「おじゃましま……え?」
:壁?
:入ってすぐに壁があるわけないだろwww
:目の前にあるやろがい!!!!
:なんで壁?
:壁かわいいね
:対物性愛者もいますと
「ああ、最近は片付けるのもおっくうでね。かがりに頼んで片付けてもらっているが……ここのところ元気すぎてこちらにかまってくれないのだよ」
「えっと、これは?」
「本だよ。積み本ではなく、読了済みの本だ」
:ファッ?!
:なんやこのロリ?!
:読了済みの本で壁作るとかあたまおかしなるで
:沙樹ちゃん!沙樹ちゃん!
:変なの湧き始めたぞ
:ここに沙樹ちゃんがいると聞いて
:沙樹ちゃんだ!
:ロリロリローリロリロリ
「……すごいですね」
「これでも、マジック・キャスターとしては国の中で1番とされているからね」
「へぇ……」
「ところで、くだんの”白薔薇”は何処にいるのかな。彼女にも話を聞いておきたいんだけど」
「……ここ」
アルが、すうっと現れた。まるで今まで消えていたかのようだった。
……どこにいるかは解っていたけど、まさか隠れてるなんて思わなかった。
これもアルの魔法かな。あとで教えてもらえたりしないかな。金儲けのにおいがするので。
「素晴らしい魔法だ……! これも君のオリジナルかい?」
「ちがう。これは……なんだっけ?」
「覚えていないのかな」
「ん」
アルは頷いて応える。
:ロリと美少女が並ぶと絵に華があるな
:もうずっとこの二人で配信しない?
:男邪魔やねん 白薔薇チャンネルに改名してカメラマンに徹してくれや^^
:かわいそう
:アマネにもいいところはあるんやぞ
:思ったよりコイツ思春期男子でほほえましいからな
「やかましいわ」
「……興味が尽きないね。ここでじっくり聞いてもいいが……要件を含めて室内で聞くとしよう」
いつまでもここにいると悪いからね、と沙樹さん。
視界の端で、まるでヘドバンでもしてるかのように頷いてる職員さん。
……本当にこのロリ、何やったんだ?
「――ようこそ、我が研究室へ」
尊大なまでに手を広げて、俺たちを招き入れる沙樹さん。
……なぜだろう。まるで伏魔殿に導かれているかのような、そんな錯覚を覚えてしまうのは。
:あーあ。沙樹ちゃんに目を付けられちゃったかー。
視界の端で見たコメントを疑問に思う前に、扉はばたりと閉じられた。
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