12:自分の価値を示す必要があるらしい

「よっす」



:おい死んだんじゃないのか

:あの状況で死ぬとは思ってなかったぞイッチ、俺は信じてた

:スレお通夜だけどどうしてくれんの?

:美少女ちゃんはよ

:フツメンくん邪魔だよ

:おまけ君さぁ



「泣きました、俺は死人でフツメンでおまけです」



:泣くなよ

:泣きました言いながら泣いてないじゃん

:ンアーッ!今回もイッチの配信のID汚すぎます!

:8101919だからな、天運?

:美少女ちゃんはよ

:白薔薇ちゃんは?



「予想はしてたけど、やっぱり白薔薇って呼ばれてるんだ」


「……白薔薇?」


「ああ、ご主人様の通り名らしいよ」



:美少女ちゃんの声!

:俺も飼ってくれ

:声しかしないのにもうかわいくてエグい

:迷宮の壁かわいいね

:無生物愛者もいますと



「……私、人気者?」


「まぁ、そりゃそうだろ。だって……その」


「その?」


「……何でもない」



:草 お前それ言わないんかい

:言えよかわいいって 感想だしええんとちゃうか

:イッチ萌えはないから安心してくれな^^

:年相応って感じでカワイイカワイイネ

:あーそれはイッチが悪いわ俺ならきちんとかわいいって言ってやるのになてかswipperやってる?

:竿役もいますと

:アマネ×ご主人様以外は解釈違いです



「やかましわい!」



:てか、なんで配信途切れたん?



 来た、てか最初からこの質問来いよ。


 流れを断ち切るためにこのコメントを拾うことにする。



「配信が切れた理由は、まさしくその”白薔薇”なんだ」



:あー

:え? なんで?

:どゆこと?

:マジックキャスターの友達が言ってたけど、あれ感応式の魔法っぽい

:つまり、浮遊して撮影してるドローンを敵とみなして氷漬けに……ってこと?

:なるほどね、完全に理解した

:理解してないやんけ



「そうそう。それでDSデバイスが壊れて配信が切れちゃったってわけだ」



:じゃあなんで今は配信出来てるの?

:DSデバイスが復活したとか?

:バカお前、美少女ちゃんががんばれがんばれって応援したに決まってんだろ



「そんなメルヘンじゃなくて……今回、俺たちの配信を見た”黎明”が救援に来てくれたんだ」



:黎明?!

:黎明ガチか

:なんでこんな木っ端探索者のために黎明が動くの?

:美少女ちゃんを木っ端呼ばわり? マ?

:でも実際すごい話だよな、黎明が救援に動くだなんてあんまり聞かない話だけど……

:間違いがあってかがりちゃんとかアズマとかが救援に来たら、一生かかっても返せない額の借金になるし……



「だからご主人様を見に来た奴らは黎明に感謝しとけ~」



:ありがたい

:露骨な宣伝

:こりゃDSデバイスと救援以外にも何かあっただろ



「迷宮オークションサイトはきちんと見てくれよな」



:おいコイツ何か売りに出そうとしてないか?

:何手に入れたんだよ

:見てみろこのにやけ顔、明らかに何か企んでる顔だぞ



 まぁ企んでいることに違いはない。高額転売で夢の牛丼キングサイズだ。


 さて、見透かされないうちに話題を変えて逃げますか。


 そもそも今回の配信の目玉は生存報告ではないんだから。



「実は今からなんだけど”黎明”からの希望で、このままフロアボスへのアタックを仕掛けようと思う」



:フロアボスアタック?!

:もちろん黎明も参加してってことだよな

:下層っぽいし、流石に黎明の力があっても無理じゃないのか?

:いや、でも白薔薇ちゃん居るし何とかなるんじゃないか?

:てかイッチも白薔薇ちゃんの使い魔なんだし、きっとすごい力があって……とかなんだろ笑

:一言余計ってこのためにある言葉なんだ

:でも実際イッチに期待はあんまりしてないかもな……



「まぁ、その評価は正しいと思うわ。俺は弱いスキルを一個だけ持ってるだけの一般トラベラーなので」



 俺がそんなことを笑いながら話していると、ふと袖が引っ張られた。


 振り向けば、アルジェントが少しだけむすっとした顔でこちらを見ていた。


 なになに、何か気に障るようなことでもいったかしら……。



「アマネは、強い。自分を卑下しないで」


「ご主人様……」


「だいじょうぶ。キミの強さは、私が証明してあげる」



 アルジェントのはちみつ色の瞳が、こちらを見据える。瞳と瞳が交錯して、アルジェントはふと微笑んだ。


 かわいらしい。けれども、慈悲深い笑みだった。まるで子供を見つめているかのような。


 ……普段は言動とか態度とかおとなしいくせに、いきなりそんな表情を見せられたらヤバいだろ。


 見慣れてきたとか一瞬思ってたけど、そんなことはないくらい心臓がはねた。


 あーあ、期待には応えたいなぁ。



:おーい、忘れないでくれよ俺たちを

:二人だけの世界に入らないで

:いいなぁ、俺もあんな風に誰かに肯定してもらいたいよ

:肯定してもらいたいならこんなところでコメント書かんと何かしろよ

:肯定を求めても意味がないゾ 次の苦しみが待っているだけだゾ もっと強い肯定感を得たいと思うようになるゾ 死ゾ

:哲学者も居ますと



 コメントが変な空気だが、しかし変に堅苦しいよりかはこちらのほうがいい感じだ。


 流れは多少早いが、まだ追いかけることができる程度。見ればカウンターは500人程度まで回っている。


 前と比べれば雲泥の差。しかし、先ほどのピークにはまだ劣る数字だ。




「……見せ場、作らないとな」



 俺たちダンジョントラベラー兼ダンジョンストリーマーが考えることは、大きく2つ。


 ひとつは金、もう一つは――画面映えだ。


 今このチャンネルの視聴者の9割はアルジェントを見に来ているはず。


 仮にアルジェントが個人チャンネルを持ったり、あるいは故郷に帰ったりする中で、そういった人たちは俺から離れていくだろう。


 だから、俺はこの配信で示す必要がある。俺に価値があると。


 俺は、アルジェントの”おまけ”ではないってことを。



「目、離すなよ」



:おい美少女映せ

:カメラ白薔薇ちゃんに寄せろアホ

:お前見ててもつまんねぇんだワ

:初見です、美少女はどこですか?

:壁かわいいね

:壁フェチもいます



 う、うーん……。見せつけられるかなぁ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る