11:神ファンサらしい


 さて、目の前にいらっしゃる最強様のご紹介をいたしましょう。


 目の前にいらっしゃるこの方は、アズマの名前で活動しているダンジョントラベラーだ。


 御年はなんと19歳! 国内外にその名前をとどろかせる最強のダンジョントラベラー。


 特徴は何といってもその強さ……ではなくエグすぎるほどに整った顔面! 顔面の麗しさにモンスターよりも早く女性が倒れてしまうらしい。


 嘘松だと俺は思っているが、生放送中に本当に倒れてしまった女性がいるのでガチだった。マジか。


 そんなアズマの直筆サインは、本人があまりサインを好まない気質からか、この世にめったに出回ることのない神アイテムとして扱われている。


 希少なものはそれだけ価値がある。つまり。



――アズマのサインが貰えれば、入学金を払うことができる!



 そんな皮算用からの土下座だったが、アズマは俺を見るとにっこりと笑った。


 ウワガチでイケメンすぎる、惚れるわ。



「いいよ」


「はい駄目ですよねすみませ……いいの?!」


「ああ。会長から君たちには良くするようにといわれているからね、これくらいはさせてもらうよ」



 アズマは指先に炎を宿しながら、ナイフの柄にサインを刻む。


 うわ、ガチでアズマのサイン入りナイフだ! 何円で売れるだろう……。



「今回はこのバカがいきなり脅してすまなかった。我々は君たちの救援と、あとこれを渡しに来た」


 

 小さく頭を下げた後、アズマは卵型の機械を差し出してきた。これには本当に見覚えがある。見覚えしかない。



「これは……DSデバイス!」


「何よりも会長が君たちに渡すようにとうるさくてね。本来は救援にいくらか費用を請求するところだけど、配信することでチャラにしてくれるそうだよ?」


「アズマのクランの会長って……あの神腕が?!」



 まじか、神腕といえば国内で最強のクランを率いる人だろ? そんな人が俺たちの配信を見たいって?


 マジか~。うれしいな、うれしすぎるけど複雑だな。それって俺というよりアルジェントの功績だろ?


 ……爆鬱だ。落ち込むなあ。これはうまい飯でも食べないとだめだなぁ。帰ったら牛丼食うか!


 よしメンタル復活!



「それで、これからフロアボスとの戦いかな」


「そうです、これを倒したら上に戻れるからって、アル……ご主人様が」


「まぁ、彼女ほどの実力があれば確かにできそうだ」



 ちらりとアルジェントを見れば、いまだにかがりさんから視線を外していなかった。


 どれだけ警戒してるんだ……。


 さて、とりあえず配信を始めないと。流石にアズマとかがりさんの派遣料はバカにならない。


 バカにならないっていうか、俺の生涯年収行くかもだし。よし。



「ああ、配信中にやってほしいことがあるんだ。それも条件として加えてほしい」


「え、何ですか?」


「私たちのクラン――”黎明”が君たちを助けたことを喧伝してほしい」



 なるほど、要するに今バズってる動画で名前を売ればもっと有名になるから、って打算もあるのか。


 別にヘンには思わない。俺だってそれが出来る状態ならきっとやるからだ。



「わかりました。それでは配信を開始します」


「ああ。俺たちは配信に映しても移さなくても構わない」


「映したらなんかヤバそうなんでやめときます……」



 あなたのサイン入りナイフを高額転売するんですよ。これ以上功名心からの悪事を重ねたくない。


 不運が起きそうだし。あとシンプルに女性ファン怖い。これ偏見かもです。



「では、始めます――」



 配信開始――!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る