10:ジョブチェンジ(笑)らしい

「来ちゃった♡」



 俺は思わず息をのむ。


 振り返った先に有名人が居たらそりゃ驚く……というわけではない。


 いつからそこにいたんだ。それだけで頭の中がいっぱいになった。



「いや~配信で見るよりも美少女だ~! どんなもの食べたらこんなかわいくなれるんだ~?」


「……お肉?」


「おいしいよね~」



 にへら、と笑う獅子山かがり。ゆるゆるとした会話だが――ただ、アルジェントは警戒を解かずに獅子山かがりへと杖を向けている。



「……そう警戒されても困っちゃうよ?」


「無理」


「それもそっかー、なはは!」



 能天気に笑ってはいるが、国内有数の実力者だ。


 その一挙手一投足から、俺は死の気配を感じてならなかった。



「――キミ。私はこわいオオカミさんじゃないよ?」



 見透かされていた。警戒していることはもろばれだった。まぁ剣向けてるし当然か。



「というか、隙だらけ過ぎて……がおーってしようと思えばいつでもできたよ? そしてかがりは、それをしてない!」



 ふわふわ言葉なのに殺意が垣間見えて、今顔無い。


 画面の向こうでしか見ることができなかった、国民的なスターとの出会いなのに、ちっとも心が躍らない。


 それどころかキモが冷えていく。……いや、キモどころか体全体が冷えている、っていうか寒い?



「……」


「ご主人ちゃん、ストップストップ! これ以上するなら、自己防衛くらいはしちゃうよ~?」




 やっぱりアルジェントの魔法だったか。……詠唱しなくても発動できるんだ。流石だ。


 獅子山かがりも流石にこれには反応しないといけなかったのか、大きく飛びのいて警戒。


 次の瞬間、そんな獅子山かがりの頭に、岩が飛んできた。


 バゴン、と音が鳴って岩が爆砕した。


 何が起きた、と視線を向ければ――その先に見えた姿に、俺は言葉を失った。


 国内最強のダンジョントラベラーは誰かと聞けば、国民の10人に1人は獅子山かがりの名前を出すだろう。


 ただ、そこにいたのは、残りの9人がその名前を挙げるだろう、最強中の最強。



「――調子に乗り過ぎだ、流石にそれはマズいよ。まったく、ほどほどにしてほしいもんだ」


「痛いよアズマ! 岩弾ストーンバレットはナシだって!」


「要救助者に取る態度じゃないから、制裁がてら?」


「ひっどーい!」




 ダンジョントラベラーといえばこの人。黒髪蒼目の最強探索者――羽澄はすみ梓馬あずまが立っていた。


 確かに獅子山かがりは有名人だが、アズマはもっともっと有名人だ。


 その登場に、俺は……俺は……!













「サインください!」



 ナイフを差し出して、土下座していた。


 レッツ高額転売。

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