08:諦めたらそこで試合終了らしい
「あ゛」
白薔薇に見惚れていた俺は、立ち直ってすぐに気が付いた。
……DSデバイスが氷漬けになっている!
俺は動いても何にもなかったのに、何故DSデバイスだけ……。
「……これ、感応式。私とアマネを、対象外にした」
「つまり、DSデバイスは対象だったってことか……」
こくりとうなづくアルジェント。まぁ仕方ないよな、流石にあの一瞬で”何故DSデバイスを対象外にしなかった”なんて言えないし。
というか、ぶっちゃけ正直DSデバイスが壊れていることなんて気にならない。それよりも気になるのは目の前の光景だ。
……明らかにこれ、オリジナル・マジックだよな?
「変な顔」
「そりゃ変な顔にもなるよ。だってこれ……オリジナルの魔法だろ?」
「ん。私のオリジナル。綺麗?」
「めっちゃきれい」
これ見るだけで金取れるレベルだ。映えスポ甚だしい。
俺もここで写真撮ったらインフルエンサーの仲間入りかーあはは。……なんて明らかに場違いなことを考えないと冷静さを保てない。
オリジナル・マジック。それは体系化された魔術を極めた末に至る、その人を象徴する魔法のことだ。
今この場で放ったこの魔法は、今後アルジェントの通り名として浸透するはずだ。……たとえば、白薔薇とかで。
「凄いな、ご主人様は」
「……これくらいだったら、アマネにもできる」
「マジか」
まさかまさか、ご冗談を……と思ってアルジェントを見るが、全然冗談を言っている気配がない。ガチで言っている。
確かに俺はまだ若いし、今から何かを極めようと思えば極めることもできなくはないだろう。
しかしそれは、前提あっての話。つまり何かというと――俺には魔法の才能が1mmもないのだ。
からっきし、水の1滴レベルもない。マジでない。
そんな俺に、魔法が扱えるとは思えない。
「俺には、無理だよ」
「どうして?」
「どうしてって……俺は魔法の才能が無い。そもそも魔力がないんだ。アルジェントみたいに魔法を使えるわけがない」
「――師匠の言葉だけど」
俺のナーバスをかっさらって、話の腰を折るご主人様。ただ、何か意図があってのことらしい。
黙って傾聴する。
「魔法は、イメージだって」
「イメージ?」
「そう。不可能を可能にする、それが魔法の本質だって」
「……」
不可能を、可能に。
そのフレーズは割と聞いてきた。トラベラーであればあるほど、その言葉は耳にタコができるほどに聞くはずだ。
だって、トラベラーこそ”不可能を可能にした”存在だからだ。本来叶うはずもない異形の怪物たちを殺せるようになったのだから。
だから、俺たちは可能性を秘めているんだって。そんな風に教えられる。
まぁ、嘘だけどな。何度も現実を見せつけられて、可能性なんてただの方便だって理解するのが、ダンジョントラベラーとしての第一歩なのだ。
「だから、アマネができると思えば、できる」
「――そうなんだ」
ただ、否定するのもアルジェントに悪いよね。だから俺は、適当に流しておく。
否定するのは簡単だけど、それで傷ついたのを治すのは簡単じゃないってことを、俺はこの数年で学んだ。
人間関係は波風を立てないことが大事。
だから。
「できるったら、できる」
「そうなんだ」
だから。
「できるできるできるできる」
「そ、そうなんだ」
……だ、だから。
「できる出来る出来るやろうと思えばできるできるできるできるできる」
「松岡修○???????????????????????」
人がせっかくしんみりモードなのに、アルジェントはずっと出来る出来ると言ってくる。
そんな簡単にできたらだれも苦労しないんだよな。うん。
「――アマネ。できる」
「だから、俺には魔力が」
「あるよ?」
「え?」
「魔力、あるよ」
……なんですと?
「いやだって、ダンジョン適性試験では俺には魔力はないって」
「……? 私の目には、魔力があるように見える。しかも結構たくさん」
アルジェントは、至極まじめな顔で言った。信じたい言葉を、ほしいままに並べてくれている。
でも、だからこそ怖い。それがアルジェントなりの気遣いとかだったらどうしようとか。そう思ってしまう。
これで失敗したらもう二度と立ち直れない感じがして。試したくなくなってきて。
首を振る。一瞬浮かんだ希望に。
「信じられない?」
「……正直信じたい気持ちがある。アルジェントほどのマジック・キャスターが言うなら、って」
「ん」
アルジェントは小さくつぶやいて、背を向ける。
振り返る寸前、アルジェントの表情は何かを思い悩むようで。
それがいったい何なのか、後の俺は知ることになるの――。
「命令、復唱して」
「んな――!」
背中越しに命令されて、俺は自由が利かなくなった。
「■■■■、■■■――」
アルジェントが、あの時の詠唱に似た言葉をつぶやく。
俺も寸分たがわず、同じ言葉を繰り返した。
……全く知らない言語だが、口触りが良い言葉だ。呟くのに、なんというか、まごつきがない。
「■■■、■■■、■■■」
……なんとなく。白薔薇の時とは違う詠唱だということが解った。
白薔薇よりももっと簡単。でも、俺には無理と思えるそれは――明らかに魔法の詠唱だ。
「■■■■■■。■■■」
口が、アルジェントと一緒に動く。
ふと、腹の底に火を入れられたかのような熱を感じて、俺は思わず苦痛に声を上げようとした。
だが、アルジェントの命令の強制力のほうが強いようで、声が挙げられない。
詠唱が続けば、痛みは強くなって襲い掛かってくる。それを耐えるために声を上げることは、許されなかった。
「――命令する」
……詠唱が終了したのだろう。最後のトリガーとなる言葉を吐けば、今までの詠唱が結実して魔法となる。
ここで、アルジェントは”命令”してきた。
「魔法を詠唱して」
嫌だった。いやだった。いやなはずだった。
だけど、俺は従っていた。
「咲き誇れ――
腹の底から沸き上がった熱が、一瞬にして冷め切った。
そしてとくとくと底から満ちてきて、体全体に循環する。
俺の言葉とともに、とぷりとあふれ出したそれが、形を作った。
――眼前に、ぱちりと花火が飛び散った。
比喩でもなんてもなく、唐突に花火が目の前で飛び散ったんだ。
何もないところから、いきなり。つまり、これは――事象の想像。
つまり、つまりこれは――。
「だから言った。使えるって」
まぎれもない、
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