06:どうやら接敵したらしい
俺が放心している間にも、視聴者のカウンターは上がっていく。
先ほど1万5000人に驚いたはずなのに、もう2万人の大台に乗ろうとしている。
……これも美少女パワーか。流石の集客力だ――。
「……それはそうとキミ、敵が近くに来てる」
「マジか……どうする?」
「ここは私がどうにかする」
アルジェントが身の丈ほどある杖を構えて前に出る。
先ほどまでは持ってなかった杖がいきなり出てきてガチでビビった。どこにそんなもん持ってたんだ?
:何もないところから杖が出てきた……?
:アイテムボックス持ちかよご主人様
:美少女なのにアイテムボックス持ってるとか、天は何物を与えたんだ……
:爆鬱
:うちのクランメンバー全員この配信のこと話してて今顔無い
:ぜひうちのクランに入りませんか? 男も一緒で構いません! https://xxxxxxxx
:おい、勧誘するなシバくぞ
:イッチついで扱いやん草
コメント欄でいわれのない流言飛語が飛び交っているような気がするが、今はそれどころの話ではない。
目の前から現れたのはグレーターウルフ3体。彼らは隊列を組んで俺たちへと近寄ってきていた。
その様子に俺はビビッていたが、アルジェントは違う。特に気にする様子もなく、杖を大きく振る。
……今更だが、アルジェントの構えた杖はあまりに壮麗な作りだ。優美といってもいい。
細かなレリーフが刻まれており、幾何学模様を描く柄の模様はミステリアスな印象を杖に与える。
また全体の意匠が蒼でまとめられていて、アルジェントの雰囲気に良く似合っている。
「大丈夫か?」
「ん。私は結構強い」
アルジェントはそれだけつぶやいて前を向く。目をつむり、小さな唇で何かの言葉を紡ぎ始めた。
それがどんな意味を成すのか俺には理解できない。ただ、そこに込められた気配――魔力の濃さに俺は思わず後ずさった。
アルジェントはそんな俺のことを気にすることなく言葉を紡ぐ。
:詠唱だ
:現代の魔法使いに詠唱を使ってる奴なんているか?
:いるにはいるけど、あれはロールプレイじゃね
:でもこれロールプレイみたいには見えないけど……
:”ガチ”じゃんね
:イッチ思わず後ずさってて草 エグいんやろなぁ……
:説明しよう! 魔力とはそれを持たない者には見えない性質があるが、しかし濃密すぎる魔力は時にして可視化されることがあるのだ!
:説明サンガツ
「――
杖の先に宿った青白い光。それをアルジェントはふう、とろうそくの火を消すように敵へと飛ばした。
グレーターウルフは止まらない。止まらない。なおも接近して、もうアルジェントに噛みつける範囲にまで到達した。
:危ない!
:せっかく見つけた俺の推しが;;
:推しは推せるときに推せって言われたって、10数分の付き合いなんてこりゃないぜ;;
:これで死んだらガチでヤバいな……配信界の大事故の一つに挙げられるようになる
「アル――ッ!」
「ん、心配ない」
アルジェントがこちらへ振り向いて、小さく笑ったと思った、次の瞬間。
背面に迫っていたグレーターウルフたちが、その場で”静止”した。
その場には何もない。少なくとも俺には見えない。グレーターウルフが何故止まったのか、理解が及ばない。
だが、その疑問はすぐに氷解することになる。……文字通り。
グレーターウルフの赤い体毛に、パキンと音が鳴った。
パキンパキンと音は連なり、数秒もすれば大音量の破砕音のように鳴り響く。
そして、ひときわ大きく――バキンと音が鳴った。
――そこに現れたのは、氷の薔薇園だった。
その美しさに、俺は目を奪われた。
「――ふふん」
もちろん、勝ち誇ったように笑うご主人様にも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます