04:ファーストキスから始まる配信もあるらしい。

 意識が戻ってくる。先ほどまであった茹だるような熱はどこかへと消えていて、今は正常な思考ができるようになっている。


 ……だからこそ、アルジェントの唇の柔らかさが克明に伝わってくる。こんなに柔らかくて、ぷるぷるなんだ……。


 触れる程度のキスだったけど、まるで天国に登るような感覚さえ覚えた。


 んだけど。いやなんでいきなりキスを?!



「契約成立。これでアマネは、私の使い魔、だよ」


「使い魔――?!」


「ん、そう。貴方は私の使い魔。私の命令には、基本服従」



 例えば、とアルジェントは地面を指さす。



「おすわり」



 何を――と思った瞬間、俺の体は勝手に動いた。


 地面に座り込んで、視線をアルジェントから外すことができない。


 これはもしかして、絶対服従ってヤツですか?!



「自由にして。……ちなみに、絶対服従ではない」


「あ、そうなんだ」


「アマネがどうしてもいやってことを、私は命令できない」


「結構意思強めに拒否したら大丈夫ってことか」



 その通り、とばかりにアルジェントは頷いた。


 そこでふと疑問に思った。



「自分の名前とかは覚えてないのに、使い魔の儀式については覚えてたのか?」


「……違う」


「と、言いますと」


「アマネを見た瞬間、こうするべき、ってイメージが頭に浮かんだ。そのままやったら、成功した」


「なるほど」



 記憶が断片的に失われている感じなのかもしれない。であれば、覚えている記憶を聞けば、彼女の素性についてもわかるところが出てくるかも?



「他に覚えていることはないか?」


「……エルタニア王国。そこから私は来た」


「来た? どうやって?」


「覚えてない。でも、エルタニア王国っていう名前は、覚えてる」



 エルタニア王国、聞いたこともない国の名前だ。インターネッツ大先生に聞いてみよう。


 ――インターネッツ大先生、エルタニア王国って何ですか。


 ――はい、存じ上げません。


 検索にヒットしない……?



「それは何処辺りにある国?」


「わからない……」


「なるほど……?」



 でもインターネッツ大先生も知らないとなると俺には確実にわからないし……。


 そうだ、こういう時は妙なことに詳しいスレッド民に聞いてみよう。何かわかるかもしれないし。


 俺はダンジョンストリームデバイス、略してDSデバイスを取り出して操作する。


 ダンジョン内でも確立されている電波が、DSデバイスをスレッドへと接続してくれる。



(できるだけ関心を引いて、広く回答を募りたい……。センセーショナルな見出しにして、っと)



 そうしてスレッド:【悲報】ワイ15歳迷宮探索者、使い魔になるが出来上がったのだった――。





「アルジェント、一つ相談していいか?」


「ん……」


「エルタニア王国について広く知識を募集したら、まず俺たちが何者かを証明しなきゃいけないらしくて。写真を撮らせてもらっても大丈夫?」


「シャシン……? それは、その機械でやるの?」



 写真を知らない……?!


 いやまさか、そんなわけ……。でもインターネッツ大先生に地名が載ってないくらいの僻地だし、あり得るのか?



「そう。写真っていうのは、こんな感じで……」



 俺は慣れた手つきでDSデバイスをインカメラに設定する。そして、俺とアルジェントが両方映るように画角を調整して――セルフィーを撮る。


 俺の写真写りカス過ぎるけど、アルジェントは素材がいいのかめっちゃ映えている。泣けてきた。



「こんな感じで、精密な絵みたいなのを残せるんだ」


「……すごい技術」


「俺たちの間じゃ結構当たり前の技術だ。ちなみに、他の場所へと俺たちの様子を写せる映像って技術もある」


「エイゾウ」



 オウム返しにアルジェントは応える。はちみつ色の瞳がとろんとしているせいかあんまり話を聞いてなさそうな感じがするけど、その実俺の持つDSデバイスに興味津々なことが伝わってくる。


 そうだな、機能を紹介がてら、テスト配信でもしてみるか? ワンチャンアルジェント効果で登録者増えそうだし……。



「アルジェント、映像って技術の中に配信っていうものがあるんだが、やってみないか?」


「……興味ある」


「よし。じゃあやるか。……でも、名前バレたらあれだし、お互い別の名前で呼び合わないか?」


「別に私は問題ない。じゃあ、アマネのことはキミで」


「アルジェントのことは……ご主人様って呼ぶ」


「ん。わかった」



 その他、ある程度の決まり事をアルジェントに伝えて、俺は再びスレッドに舞い戻る。


 そんな気はしていたが、スレ民たちは暇人煽りや釣り疑惑をかけながらもおとなしく待っていた。


 流石に気になるのだろう。



「じゃあ、配信開始するぞ」



「ん。どんとこい」




 均整の取れたプロポーションを押し出すように、ご主人様は胸を張った。



――配信開始!

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