第4話 失踪

 翌朝、私が目が覚めるとレンの姿が消えていた。


 飲みかけの酒がお椀に残ったまま、まるでさっきまでそこに居た様な雰囲気すら残して、各室内を隈無く探すが忽然と居なくなっていた。

 何か伝言を残すことも無く、書置きすらも無く。



「・・・おはよう。昨晩はよく眠れたかね?」


 レンの叔父がいつの間にか、簡単な朝食を持って玄関に顔を出していた。私はその気配を感じずにいたことにびっくりしながら振り返り、今の状況を伝えた。


「あ!す、すいません、先ほど、起きてみるとレン君が居ないのですが、ご一緒されていますでしょうか?」


「え?いや・・・私も今ここへやってきたばかりだが・・・錬太郎が、居ない??」


 叔父の反応は私と同じく初見で驚きと戸惑いを感じる。では、彼は独断でどこへ行ったのだろうか・・・・・・


「・・・私も、仕事がてら探してみるよ。心当たりがある場所を回ってね。夕方にはまたここを通り過ぎるので、その際に情報を共有しようか」


 レンの叔父はそう言って、そそくさと去って行った。



 さて、私はどうしたものかと考えた。当初の予定では、今日昼間の内にこの村の外周を回って全体を把握するつもりだった。もし私の婚約者やレンの親が幽閉や拉致されていた場合、救い出せた後の逃走経路を考えておかなくてはならず、川や別の道路、海など、そして逆に追手に追われて逃げる場合には、未開拓の地へと身を隠せるような密林の方向を知っておかなければならない。


 少し考えて、レンの無事を祈りながら私は考えているだけでは何も始まらないとも思い、とにかく当初のプラン通り周辺を回り、ここの土地勘を得に出かけて行った。もしかして、ただ急ぎ足で先に出て行っただけというレンと道中に出会うかもしれないと、無根拠な望みも掛けながら。




 私たちが泊まった古屋はこの村の最南端に当たる。先ずはこの開かれた空間に沿って森林の中を東へと迂回しながら北へと進むのに、先ずは昨日、レンの叔父が言っていた厠へと進む。



 夜では全く見えなかったが、確かにポツンと数十メートル先に小さな小屋があった。その先は田畑が左右に並び、真ん中を土系舗装の道が村を分断するかのように真っすぐと伸びている。


 この厠は恐らく農作業時に村人が使用されるのと、私が泊まっていた古屋は村前でこの村で採れた名産の物を露店したり、村の外部へと売りに遠征する際、一時的な保管場所のようだった。


 そして、大分前にだがレンに聞いたことがある。

 外部から来た者、もしくは何日も遠征に出かけた村の者が帰宅時、村からある程度外れた場所に軟禁され、数日ほどそこで暮らしてからでないと村内部へ入れて貰えないようにしている所もあると。

 天然痘やペスト、赤痢などの細菌やウイルスがこの日本にも萬栄した時など、そういった措置が取られていたのも仕方がないことである。


 私はそのまま寂しく設置された厠を後にし、森の木々に身を潜めながら村を迂回して行った。

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