第3話 共食い

 私はいつものように、レンの独自の考察話を聞きながら酒を熱燗にしてヒレ酒をチビチビと舌鼓していると、下の方を催してきた。

 夜は危険だとここの者、レンの叔父が言っていたのもあり、わざわざ少し遠いかわやまで行くのも面倒だったので古屋の裏手にでも用を足しに行こうとした。


「おい、どこ行くんだ?」


「ああ、”ちょっと”ね。直ぐに戻る」


「・・・一緒に行こうか?」


「いや、’’その辺’’でしてくるから」


「ああ・・・何かあったら、大声で呼んでくれ」


 連れションをするような仲ではないのもあって、私は一人で”ソレ”を臭わせてオイルランプに火を灯して外へと出て行った。


 外は立秋とはいえ、まだまだ夜でも暑く「蟲」たちが五月蠅い。夏の繁殖の繁忙期を終えてよりその数を増やし、そして世代交代していく。その過程で、種に寄っては産卵後のメスや繁殖争いでキズ付いたオスといった弱った同種を「」する、そんな粗暴な若い世代が多くいる昆虫類も少なくは無い。


 カマキリは交尾の後、メスの栄養の為に身体の小さなオスはメスに食われるという話は有名だが、くだんの集団生活をする動植物では否応なしに弱者は食われる運命にある。そんな種類と比べれば、まだカマキリの世界はマシだとも言える。

 わざわざ人間の前や道路、天敵がいるのにも関わらず根城から表に出て来て死んでいくのは、正に『同種の逃げてきた』ボロボロな個体なんだ。


 私は様々な蟲の声を聞きながら、そんなことを考えていた。


 程なく、小だけでなく便の方も’’もよう’’し、その場でさっさと用を済ませて家の中へと急ぐ。


 中へ入ると、レンはもう眠っていた。さっきの頼もしい「何かあったら・・・」という言葉を、撤回してもらいたいものだ。


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