第2話 新興国

 村の中心部からは外れにある入口付近、メインの土系舗装から分岐するように獣道があり、そこを約十分も歩かない場所に今では誰にも使われていない古屋があるのでと、今夜はそこに案内された。


「すまないね、お二人とも。私たちには見えない監視みたいなものが付いていてね。陰湿な田舎ならあるあるだろ?迂闊には動けないんだ・・・今日も、私は都市部へと農品の新たなルート交渉という名目で出てきた帰りに、君たちと接触をしている。こんな所で申し訳ないのだが、理解してくれ」


「大丈夫ですよ、ありがとうございます。食、住だけでもあれば十分です」


「ああ、そうそう、はもう分かっていると思うけど、出来るだけ夜間にトイレだけは行かない様にしてくれ。野性の『モノ』が出るからね」


「野生の?オオカミか、熊、とかですか?」


「まぁ、そんなところだ。あ、因みにトイレは『汲み取り式』なので、この辺では少し上に行った場所に共同として設置してある。そこで頼むよ」


「分かりました」


「市町村合併なんて大袈裟なことは何千人と村人がいての制度であり、こんな数十人規模の村では勝手に吸収やら廃村になろうが比較的自由にさせている。この辺一体の者は村の北側、山の麓へと集められてそこの発展に注力させられているが、物置場よろく何らかの物資を取りに戻ってくる者が居ない訳でもないから、一応に気を付けてくれ」


「はい」


「また、明日の朝にでも仕事へ向かうと銘打って食事を持って来るから、今日はゆっくりとしてくれ。では、幸運を祈る」


 そう言って、友人「錬太郎」の叔父は景気付けにとお酒とアテの干乾し魚を置いて去って行った。



 私と友人のレンは、本当に景気付け、と言うよりも『最後の晩餐』のような気分で酒を味わうと共に、気を紛らわせるように談笑を交わす。


「知っているか?何故『後進国』で牛の血や小便を飲むのか」


 レンは個人的に人類学を学んでおり、そういった研究をしたく上京してきたのもある。大学へは資金の問題で行けなかったが、今はお金を貯めて「自然人類学」を専攻するのが夢だった。私の話は殆どがこの友人であるレンの受け売りなのだ。


「あれじゃないの、儀式とか習慣?俺たちも祭事に神酒とか飲むじゃない」


「そういった部分もあるかもなぁ。いや、厳密には違うんじゃないかと、俺は思っているんだ。日本では世界に比べて比較的に、早い段階で人糞も農作の肥料として活用していく文化が根付き、鎌倉時代にはもう『汲み取り式便所』が使われていたそうだ。付喪神、物を大事にし何でもリサイクルする日本人ならではだね。それ以前では世界と同じく無作為に川々に流していたんだけど、日本の川は山々の傾斜が激しく、流れが激しい。なので川が『汚染』される事も少なかったんだ」


「・・・何が言いたいんだ?トイレ事情話か??」


「まぁまぁ。定期的な雨季もある日本では、飲料水の確保も直接的に川からでなく井戸を掘り、自然の『ろ過』装置で清潔な水の確保が出来る。だが、世界ではそういった俺たちの『当たり前』が通用しない。清潔な川の維持も出来ず、インフラも充実しない国で様々に『汚染』された川の水を飲むということは結構、命取りになることがあるんだよ」


「なるほど・・・特に雨が降らない土地では一本の川が最大の命綱、ってことか」


「そう。で、その川の上流で流行った病原菌なんかが感染した上流階級どもの糞尿を、多くの人が流した下流ではその水を飲む事が出来ない。しかし、脱水で死にかけてしまう事のが目前ならば、その汚染された水を覚悟して飲むしかない・・・・・・」


「ってことは、その汚い川の水を飲むよりも血や動物の小便を飲む方が『安全』って、ことだな?」


「そうだ。ある種の『肉体ろ過装置』ってとこだな。その文化が形骸化して、その風習だけが残った地域もありそうだなぁ、って話」


「相変わらず、面白い考え方をするなぁお前は」


「でさ、ある国では『家族や友人の糞尿を喰う』って文化もあるらしいぞ」


「マジ?牛や馬ならまださっきの話を鑑みれば理解出来なくも無いが・・・人糞かよぉ、まるで『便所コオロギ』だな・・・・・・」


「牛とかの家畜すら居ないもっと過疎地、辺境地だと、もうそれしか選択肢が無いみたいだな。これも『噂』だけど、人糞に『寄生虫』が含まれていれば、それがまた良い栄養素にもなるんだって・・・・・・」

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