最終話 無重力②
様々な洋服系のテナントが立ち並ぶ。日中であれば多くの人で賑わうのだろう。ただしかし私はその場所でまた落胆していた。
飲食フロアも当然のように営業開始時間は午前10時か11時からで、この場所も例外なく今の時間は全く人が居なかったからです。
拘りがある飲食店の店主やコックであれば、仕込みの時間を加味し早朝から出勤する所もあるかもしれないが、私が脇目も振らずぶち破り、活路を得たこのフロアはアクセサリーや女性服専門フロアだった。
人気が無いのは今の私にとって、幸か不幸か、吉か凶か・・・・・・
内側に設置してあるエスカレータで陣取れば直ぐに上下へと逃げれるだろうと踏んで向かうのだが、右側前方の店頭に置かれたマネキンの様子がおかしいことに気が付いた。
ビクッ!ビクッ!っと腕が何かに反応しているように小刻みに跳ね、そして黒い影が全身を纏う。長い黒髪がバサッ!と優雅に舞うように生えて首だけがこちらにゆっくりと向けてくる。私は直ぐに左折して逃げるが、走り抜ける間も目端にはさっきと同じように通り過ぎて行く店頭に設置してあるマネキンが、次々と影に覆われ髪がバサッ、バサッと生成されながら私をどんどんと追いかけてくる様子があまりにも怖かった。
このフロアはダメだ!
女性という概念は実際の人だけでは無いようで、その象徴であればなんでも良かったのだ。私は直ぐに右折してやはりエスカレータ側へと急がなければと思った。とにかく下へと降りなければこの猛攻は止まないかもしれないと、エスカレータを滑るように降りて行く。
疲労は限界に達している。少し休憩がてら下を確認すると、このエスカレータは一階までずっと続いてはいなかった。反対側へと更に下へ行くには回る必要がある。
10階まで降りてきた私は反対のエスカレータまで走った。すると、突然横から私の身体と足が浮く程の強烈な衝撃を食らい、吹っ飛び天地が逆転する感覚を味わった。
そうして・・・・・・
『内臓が上がってくる感覚。浮遊感。無重力。』
私と同じく、ラグビーの選手張りに突っ込んできた女と私は共に宙を舞う。
なんだか懐かしい匂いがした。甘く、切ない、初恋のようないい匂い・・・・・・
その匂いの元の女は私の腰をガッツリと掴み、私と共に落ちて行く。
ビューーーーッ!!
と風の音が相変わらずうるさい。
死の間際の走馬灯は何分にも感じるというのは本当だった。
落ちて行くその先を、私は見た。
迫り来るは、このビルに上がる前に見た地下にあるステージの天井。ガラス張りの雨避け。
・・・ガッシャーン!!!
その天井をも私たちは突き破り、落ち抜ける。
その後の一瞬、また私は見た。
例の黒い女が両手を広げ、満面の笑顔で私が落ちてくるのを受け止めるかのように待ち受けていた。
《お、か、え・・・り》
ドッ!グチャ・・・・・・
擦れた女の声が聞こえたと思うと直ぐに、全身から聞こえてくる衝撃音と共に骨が砕け身体の方々に刺さる痛みを最後に、私たちはステージ上で永遠に混ざり合い、絡み合う骨々はもう、離れることは出来なくなった・・・・・・
~漆黒の友引~ END
イメージ画像有り⇩ 近況ノート
https://kakuyomu.jp/users/silvaration/news/16818093085350692390
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