第9話 前日

 私は、それから女性と付き合う事が出来なくなり、高所には行けず、狭い空間を極力さけて今まで生きてきました。

 なるべく広いワンルームを借りて引っ越し、トイレと風呂も必ず扉は開けっぱなし。


 真冬の車は極寒で、真夏の信号待ちは灼熱です。


 仕事はなんとか在宅ワークを主流にした職を選び、ずっと一人で引きこもるような暮らしをしているのですが、ただ、どうしても打ち合わせやら会議、郵送では間に合わない案件で紙媒体の急ぎの資料などは会社へと取りに行かなければならない場合がある。そんな時はなんとか車で向かい、オフィスは8階だが階段を使ってなるだけ窓ですら近寄らない様にして、女性社員や清掃員の方などは距離を置き、なんとかやってきました。


 しかしある日、最悪な事態へと追い込まれました。


 また、今度は必要書類をしなければならない状況になったのです。それは私の怠慢が原因でもあり、締め切りの日を勘違いしていた。

 チームリーダーである上司に連絡をすると、直ぐに持ってきて欲しいってのと、そして支社が移転したという知らせです。住所などをメールで貰い、確認すると私は絶望しました。




〇〇 〇〇<--_----@-----.co.jp>

to 〇〇 〇〇---_---@-----.co.jp▾

2個の添付ファイル・スキャン済み


〇〇県〇〇市〇〇

    **-**〇〇オフィスビル 18F

        TEL **-****-****




 ・・・『18階』・・・・・・


 こんな引きこもり運動不足野郎が、18階までも階段を上ることなんて出来る訳がない。


 ・・・いや、気合と根性だ・・・やるか・・・・・・


 試行錯誤していると、ふと思った。

 異性ではない者や、大人数でならエレベーターは使えるのでは、と。

 少なくとも、外の街中や広い店内では問題がなかったのは間違いない。あくまでも

「高所」「密室空間」「女性と二人きり」

 この三つが揃わなければいいのかもしれない。


 翌日、行く前から私は緊張と不安で、その日はろくに寝れませんでした。


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王様の無知はロバの道 白銀比(シルヴァ・レイシオン) @silvaration

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