追憶の景色(仮)

第5話 無重力

 内臓が上がってくる感覚。浮遊感。無重力。


 そういえば子供の頃、地味な遊園地に連れて行って貰った時の記憶が蘇ってきた。

 子供の頃は、それがくすぐったくて常に爆笑していた。只の大きな船、パイレーツを模した外観に我先にと乗り込み、それが左右と大きく揺れる。下腹部がぞわぞわと、今までに感じた事の無い一瞬の無重力が、ひたすらに楽しかった。


 慣れてくるとそれはまるで麻薬かのように、より浮遊感を味わう為にとその海賊船の先頭・・・が、どっちかは分からなかったが、船首か船尾かをとにかく陣取るのにまるでお宝をゲットする海賊になった気分で、競争心を狩り立たされていた。あの頃は色々と無知で良かったなぁ、としみじみ思う。


 今は、胃の内容物が込み上がってきて嗚咽感と悲壮感、そして、血流までもが波打ち際の海水かのように、押したり引いたり、干潮のように血の気が引いていく。眩暈のように視界がグラつき。そして目から出血するかのように眼圧を感じる。


 世界が私の周りをぐるぐると回っている、それは地動説でも天動説でもなく、自動説とでも言うべきか、個動説とでも言うべきか。視界による天地、上下が分からなくさせられた。


 そうだ。どうせ分からないなら目を瞑ろう。


 安らかに心を落ち着かせる為にも、目を閉じてみた。


 ビューーーーッ!!


 と、風を切る音しかしなくなり、余計に恐怖心を煽られる。

 ・・・いや、落ち着け、落ち着け、落ち着け。

 別に高所恐怖症っていう訳では無いんだから。ただ、普通よりも高いってだけだ。


 そうだ、そう・・・なぜか薬局の上、都会の真ん中にあったお店の屋上に小さな観覧車があった。それにその場のノリで初デートの時に乗った、あの絶妙な高さの観覧車。肉眼で真下にある川とその川沿いを歩く人達が見えるリアルな高さ。あの方が断然、怖かったのだ。

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