第3話 現実

 光の中に包まれると途端に、私はを思い出した。


「・・・おい!何してんだ!!大丈夫か!?」


 目の前にはイメージをしていたような、後光を背負った菩薩やマリア様といった聖母や神ではなく、無精ヒゲを生やしたのおっさんが私に手を差し伸べてくれていた。


 大量に海水を飲んでいた私は意識が朦朧とし、上手くその救済の手を掴むことが出来ずに海面を漂っている。

 その最中、何故、またしまったのかと、死にきれない自分が情けなくなってきてしまった。そう、私は事故で最愛の妻と息子を亡くしていたんです。しかも私の過失で・・・・・・


 小型クルーザー程の大きさである夜漁船の側面が波に押され、私をまた海中へと飲み込む。集魚灯の明かりが周囲を照らし、海面の方向と船底がハッキリと分かる。

 私はそのまま上がらずにもう一度、死のうと思いました。


 すると私の両足が何かに捕まれ、グン!っと少しだけ海底へと勢いよく引っ張られた感覚を感じ、目の前の集魚灯の明かりがもう少し暗く、その海中はさっきまで走り逃げていた曇天の森の中のような薄暗がりに支配され、恐怖がふつふつと蘇ってきた。

 急いで足元の下を確認すると、真っ暗な闇の私の更に足下の深く暗い海中からさっき河原で見た男の子と、そして蜘蛛のような細い手足の女が私の両足を掴み引き込もうとしていた。私は足をバタつかせ必死に二人の手を払おうとするが、離れずにどんどんと私の身体を登ってくる。

 私の胸元あたりまで、女の方がせり上がりその顔を見せつけてくる。その顔は男の子と同じく両目が無く、瞼も無くなっていた。顔は手足とは違いパンパンに膨らんだ風船のように、ボクサーが試合した後の翌日のように、晴れて膨れてしまって水膨れている。私は水中で叫び大量の酸素を吐いてしまった。


 怖い!嫌だ!死にたくない!!

 そう思い、長く黒い髪を引っ張り女を遠ざけようとすると、ズルっと頭皮から髪が皮膚ごと剥がれるだけで、まだ目の前に水死体の女が私を掴んで離さない。その腕は骨と少し残された肉しか残っていなく、それで細く見えていたことが分かった。


 段々と意識が遠のく最中、魂が抜けるかのような浮遊感を感じながら気を失った。このような死に方が私には相応しいかもしれない。そう考え、抵抗を止めて全てを受け入れた。


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