第2話 遁走

 泳ぐ、という動作をしたモノは一人も居なく、全員が水面を歩いているように軍行は続き、その内の何人かは川から逸れて山の方へと向かうモノや、真っすぐに進行を変えずに進むモノ、そして、何人かはこっちに向かってやって来る。


 なんだか、凄く嫌な予感がした。


 殆どのその人影群は頭を垂れて俯き、腕を一切振らずに下をずっと見て歩いている。しかし、稀に上を向いてヘラヘラしているようにも見て取れるモノもいて、全員がそれぞれに気持ち悪かった。


 しかし、それらよりもっと気持ちが悪いのが川の中から、水を滴らせながら這い上がってくる女がこっちへと向かってきていた。気がついた頃には上半身が水面から出ていて、そいつと目が合いながら何故かこっちを見据えていた。そいつは周囲の半透明どもとは違い、私にはハッキリと見える、人?なのかどうかも今としては怪しかったが、四つん這いでよく映画で見るような細い四肢を蜘蛛のように広げて、長く黒い髪から滴る川の水の音と小石をギャリジャリと跳ねのけながら、不器用に四足歩行で向かってきていた。


 私はゾッとして後ずさり、振りかえって逃げようとすると何かに躓き大きく転んだ。肘や肩を強打し、顔を顰めながらまた踵を変えてぶつかった障害物を確認すると、さっき見た目の無い少年だった。私は更に恐怖に怯え、情けなく手足をバタバタさせながらもなんとか立ち上がり、必死に痛みも忘れて走り去っていった。




 周辺と空はずっと白みがかっていて、明朝なのか曇り空なのかなんとも言えない曇天であり、そして森の中へと入ると草木が不気味に恐怖の雰囲気を演出してきていた。全く何も見えない闇の中では無かったことは良かったが、焦りと恐怖で足が時折もつれて、何度も転んで手や膝は擦り傷だらけとなっていた。

 目端に捉える様々な影が、さっきの化け物か人影どもかと見間違え、左右や前後をきょろきょろと忙しなく脅かされる。ただの木の影だったり、ただの草葉の隙間だったり。体力というより心労による疲弊が、限界に近づいていた。


 その時、突然に目の前に光が差し、明るく眩い世界が森を抜けた先に待ち構えていたので、私はそこへ飛び込むように駆け抜け走った。

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