王様の無知はロバの道

白銀比(シルヴァ・レイシオン)

深淵なる水縁

第1話 河原

 私は気が付くと、目の前には川の迂曲地、河原に立っていた。


 右奥から山の麓沿いに、川上から水が大量に流れてきている。

 足元には丸く角の取れた綺麗な石が沢山と転がり、私がまだ子供であれば水切り遊びをついしていたことだろう。

 川は左へとカーブを描き伸び続け、山と森の木々の中央へと進みその先は見えない程に長く続いている。


 ふと、その左手前に誰かがうずくまっているのが見えた。


 私は徐に近づき、声を掛けようとした。何故ならば、そのモノは背丈は小さいが、少しふくよかな男の子だったから。

 こんな所で、子供が一人で何をしているのだろう。周囲を見渡すが親らしい人影は一切無く、至極当たり前なようにその子はそこに存在していた。


 手先などが見えるまで近づくと、男の子は落ちている石を物色しているようだった。私の子供の頃と同じく、よく跳ねそうな平べったい石を探しているのだろうか。


「・・・ねぇ」


 声を出してみるが、自分には声が出ているのかどうかが分からなかった。鼻腔内や口腔内の反響が全く聞こえてこなかったが、男の子はこちらを振り向いた。くるっと振り向いたその子の目を見ると、まるで目玉が無いかのように真っ暗で「うわっ!」っと、また出ているかどうか分からない悲鳴を上げて私は驚き尻もちを付いた。


 唖然としている内にその男の子は、すっ・・・と、消えて居なくなり、コロン、と持っていた石ころが転げ落ちる。しかし、その音は聞こえない。


 そういえば、川のせせらぎも聞こていないことにこの時点で気が付いた。

 木々が揺れているが葉擦れの音もなく、晩夏にも関わらず蟲たちの声も一切しない。


 ここは・・・どこなのだろう・・・?


 耳が聞こえなくなったのではないかと少し怯え、耳の有無を確認した。耳という物はあったが、意味の無いことをしているなと自分がバカみたいだと感じ、尻もちを付いているそのまま、手元の適当な石を川へと投げてみた。


 ・・・ポッチャンッ・・・・・・


 石が水面へと落ち跳ね上げる水の音だけがハッキリと聞こえた。耳が、鼓膜がどうにかなった訳ではささそうだった。


 何なんだ、ここは・・・・・・


 そう考えている間も無く、今度は川の上流から多くの人影が連ねて川の中を歩いて行く。その軍行は先ほどの男の子とは違い、みんな半透明で向こう側が透けて見えていた。



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