第109話 実は母親でした(その7)
「仁、明日は学校があるのだから、私達のことは気にせず先に休んで良いわよ」
「仁君、恵子の言う通りよ。私達に付き合って明日に影響が出てはいけないわ」
仁はそれから恵子と頼子に付き合って話を聞いていたが、ほとんど過去の思い出話であった為に、内容をほとんど理解できないものであった。学生時代の頼子がどのような生活を送っていたか知る良い機会になったが、2人の会話は終わる気配を見せなかった。その間に仁の父親のコレクションは減り続け、空になった瓶が複数転がっている状態になっていた。
「ごめん、それじゃ僕は先に休ませてもらうよ」
仁はこれ以上付き合うのは無理だと判断して、先に休むことを2人に伝え、入浴を済ませてから2階にある自室に入った。
「あはははは」
「うふふふふ」
仁は寝る支度を調えてからベッドに入った。部屋の中が静まりかえったことで、下の階から話し声が聞こえてきた。楽しそうに会話をする2人の声を聞く限り、まだ終わりそうな気配はしなかった。
「明日の日課もあるし、後は母さんに任せて寝よう……そう言えば何か忘れていた気がするけど……まあいいか」
この日、いろいろなことがあり、仁も程よく疲れていた。何か重要なことを忘れていた気がしたが、1度目を閉じてしまうと、すぐに眠りの世界に引き寄せられていった。
ピピピピッ、ピピピピッ。
「うっ、もう起きる時間か」
仁は朝の日課である株取引の入力をするため、ふだん起きる時刻に目覚ましをセットしていた。大きな音を立てて鳴っている目覚まし時計のボタンを押して、アラームを止めようとした。
ピピピピッ、ピピピピッ。
(あれ? ボタンの感触が妙に柔らかかったけど、違うところを押したかも?)
ぷにっ
(目覚まし時計って、こんなに触り心地が良かったかな?)
仁は目覚まし時計の停止ボタンを何度も押したが、帰ってくるのは柔らかい感触で、アラームは鳴りっぱなしであった。
「ん?」
仁は必死に押していたものが、違うものであることに気が付いた。
「う、うわぁ!」
柔らかい物体の正体に気が付き、仁は目覚まし時計の停止ボタンを押してから、思わず声を上げてしまった。
「ううっ、頭痛い。おはよ、仁君」
「よ、よ、頼子さんがどうして僕のベッドの中に?」
「うーん、どうしてなのか記憶が曖昧ね」
仁が必死に押していたものは頼子の頭であった。何度も叩くように押していたため、隣で寝ていた頼子も痛みで目を覚ました。
「仁君、おはようのギューをしても良いかな?」
「えっ? えっと」
「勝手にギューッてするから」
そう言って頼子が仁に抱きついてきた。
「やっ、柔らかい。それに温かいって、うわっ!」
「じ、仁君、突然大きな声を出してどうしたの?」
「だ、だ、だって、頼子さん、下着しか着けてない」
「服を着たまま寝られないでしょ。仁君だから私は気にしないよ?」
頼子は下着姿であった。その状態で抱きつかれた仁は、彼女の温かくて柔らかい感触をまともに受けてしまった。
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