第108話 実は母親でした(その6)
「もう、どうなったって知らないんだから。ぐびっ、ぐびっ」
覚悟を決めた頼子は、グラスに注がれたウィスキーを一気に飲み干した。
「頼子ったらなかなかいけるわね。ささ、2杯目をどうぞ」
「1杯……あー、もう考えても仕方ないわ。恵子も飲みなさいよ」
「ふふふ。言われなくても2杯目よ」
自分ばかり飲まされていると思った頼子であったが、恵子は更にその先を進んでいた。
(少し前まで同級生だと思っていた人が、グビグビとお酒を飲んでいる姿を見ると、何か変な感じがする)
仁は、頼子のことを今まで同年代だと思っていたが、こうしてお酒を飲む姿を見てしまうと、本当に大人の女性だったのだと思い知らされた。
「仁ったら、頼子がお酒を飲む姿を見てショックを受けたかな?」
恵子は仁の態度を見て、何かを察して揶揄うように言った。
「仁くーん、もしかしてぇお酒飲みは嫌いですかぁ?」
かなりハイペースで飲んでいるため、頼子の顔は真っ赤であった。そして酔いのせいか、やや呂律が回らない様子であった。
「そ、そんなことはないけど、お酒が飲める年齢の女性だったと改めて知らされただけだよ」
「仁君もぉ少し待てば飲める年齢になるわよ。そうしたら一緒に楽しみましょ」
「そっ、そうだね」
仁はお酒を飲むという行為が、どのように楽しいか理解できなかったが、そういう年齢になってから、一緒に飲めたら良いなと思った。
「あー、仁。私と頼子は夕食いらないから、適当に食べておいてね」
恵子は仁に夕食は1人で食べるように伝えた。
「仁君、お昼のカレーで良ければ準備するわよ」
「えっ? でも母さんと話をするんじゃ?」
「支度って言っても、恵子の目の前でするから話くらいできるわよ」
頼子はそう言って昼間に作ったカレー鍋を温め始め、仁の夕食の準備に取りかかった。
「こうしてみてると、お似合いかもしれないわね」
「かっ、母さん、揶揄わないで」
キッチンに立っている仁と頼子を見ていた恵子は、2人がとても良い感じに見えた。そのことを伝えると仁は揶揄われたと思い、恥ずかしそうな表情を浮かべた。
「おまたせぇ。はい、どうぞぉ」
「へぇ、なかなか美味しそうな匂いがするわね」
「美味しそうじゃなくて、美味しいんだよ」
頼子は手際よく仁のカレーを用意し、テーブルの上に置くとスパイスの利いた程よい香りが部屋に漂った。恵子はそれを見て食欲をかき立てられた気分になった。
「頼子、続きをいくわよ」
「どこからでもかかってきなさい。受けて立つわ」
用事を済ませた頼子がテーブルに着くと、恵子が景気付けの1杯といわんばかりにグラスにウイスキーを注いで渡した。頼子も何杯か飲むうちに耐性が付き、受けの姿勢を取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます