第107話 実は母親でした(その5)
「わーい、新しいおつまみだぁ」
頼子は仁が手に持っているレジ袋を見て喜んでいた。
「あまり買っていなかったけど、午前中に購入したお菓子では足りなかったみたいだね」
「そうなのよ。恵子ったらバクバク食べるから私の食べるものが減ってしまったわ」
「そういう頼子もバクバク食べていたわよ」
テーブルの上に置いてあったはずのお菓子類は、すべて空になっていて頼子はそれを恵子が食べたと主張した。するとリビングのドアが開けられ、恵子が戻ってきた。仁と頼子の話を聞いていたようで、お菓子を食べた主犯は自分だけではなく、頼子も共犯者だと言った。
「そっ、そうだったかしら?」
「そうよ。頼子、食べ過ぎてお腹が出てきても知らないわよ」
「うっ、恵子、アナタだって同じくらい食べたでしょ。そのままそっくり返すわ」
「残念でした。私のお腹は既にこうよっ!」
恵子から食べ過ぎてお腹が出ると言われ、頼子は恵子も同じくらい食べていたので、同じようになるというと、恵子はお腹を出して既に手遅れだったことを見せつけた。
「恵子、それって、自慢にならないわよ」
「そ、そうかしら」
頼子から鋭いツッコミを受けた恵子は、恥ずかしそうに出していたお腹を引っ込めた。
「母さんも頼子さんも仲が良いんだね。親友って言っていたのも頷けるよ」
漫才のようにボケとツッコミが交差する頼子と恵子の話を聞き、仁は2人の仲の良さが本物であると改めて感じた。
「あっ、そうそう。夫の部屋から持ってきたわよ。どうせ飲まずに取ってあるものだから、2人で飲んじゃいましょう」
「母さん、それって父さんが大事に集めているお酒の1つじゃ?」
「お酒なんて飲むためにあるのよ。眺めるためではないわ。という訳で開封っと」
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恵子は仁の父親の部屋から、年代物のウイスキーを取ってきていた。それを躊躇いもなく栓を開けてしまった。
「あーあ、開けちゃった。これって1本……」
「気にしない気にしない。さ、さ、頼子のを注ぐわね」
いつの間にかテーブルの上には2人分のグラスと氷が用意されていた。恵子はトポトポと高級感のある音を立てながら、頼子のグラスにウイスキーを注いだ。
「じっ、仁君、値段のところが上手く聞き取れなかったのだけど、もう1度聞かせて欲しいな」
「300000円くらい」
「ひっ!」
「頼子ぉ、何怖じ気づいてるのよ。もう開けちゃったんだから飲まないと勿体ないわよ」
頼子は目の前に置かれているウイスキーの価格を聞き、一気に酔いが吹っ飛んだ気分になった。コップ1杯がいくらくらいするのか、酒が入り思考力が低下している状態で必死に計算を始めてしまった。その慌てている様子を恵子は面白そうに見ていた。
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