第106話 実は母親でした(その4)
(これくらい買っておけば、きっと、母さんも文句を言わないだろう)
「らしゃせぇ」
仁は近所のコンビニで、買い物カゴいっぱいに酒のつまみになりそうな物を詰めてレジに持っていった。相変わらずこの店のレジを担当しているバイトの若い男性は、やる気がない様子で、面倒くさそうな様子で仁の持ってきた商品のバーコードを入力していた。
「って、お金を預かってくるのを忘れた」
仁は恵子から酒のつまみを購入してくるように言われたが、お金を預かっていないことに気が付いた。
「お会計……になりやーす」
(確信犯のような気がするけど、仕方ない出しておくか)
恵子は仁が株で大儲けをしていることを知っているため、自身の財布を傷めず仁の財布から出させる気でいたようであった。既に会計中であるため仁は仕方なく立て替えておくことにした。
「ありがとやーしたぁ」
レジ袋に購入した商品を入れてもらった後、仁はコンビニを出て家に向かって歩きはじめた。
「あははは。そんなこともあったわね。確か頼子はビックリして動けなかったわよね」
「うっ、仕方ないわよぉ。突然のことだったから。恵子だって同じ立場だったらきっと同じ反応をするはずよ」
仁がコンビニで買い物をしていた頃、恵子と頼子は学生時代の話をしていた。特に楽しかった話題には花が咲き、2人は笑いながら過去のできごとを懐かしんでいた。
「あらら、もうビールがなくなってしまったわ」
恵子は手にしていたビール缶が空になり、次の缶を取ろうとしたところで用意していた1箱をすべて空けてしまったことに気が付いた。
「それなら仁君がまだコンビニいるはずから、電話すればまだ間に合うかもしれないわ」
「ばかねぇ頼子。お酒は買うときに年齢確認をするから、未成年の仁は買えないわよ」
「えっ? 私が子供の頃は普通におつかいでお酒を買いに行かされたけど、これって、いけないことだったの?」
頼子は足りなくなったお酒をコンビニに行っている仁に頼もうと提案した。だが、恵子が呆れた表情をして未成年はお酒が買えないことを話すと、頼子は驚いた表情をしていた。
「私達が子供の頃は買えたかもしれないけど、今は法律で売ってはいけないことになっているのよ」
「そっ、そうなのね。知らなかったわ」
恵子に言われ、そのような法律ができていたことを、このとき頼子は初めて知った。
「私も、飲んだから今更買いに行くのも面倒よね。そう言えば良い物があったわ。ちょっと待ってね」
「けっ、恵子、どこへ行くの?」
恵子は何かを思い出し、頼子を置いたまま部屋から出て行った。
「ただいまー。って頼子さん1人? 母さんはどこへ行ったの?」
そこにちょうど入れ違いになるように仁がコンビニから帰ってきた。
「えへへ、仁君おかえりぃ。恵子は何か捜し物をしているみたいよ」
「僕が出ている間に結構飲んだね」
「そうかな? 久しぶりのお酒だったから、進んでしまったのかもしれないわ」
頼子はとても機嫌良くビールを口に運んでいた。仁は周囲に転がっているビール缶の数から、ほぼ1箱を空けてしまったことに気が付いた。
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