第102話 おうちデート(その8)

「そっ、それって」


 仁は頼子の言葉を聞き、心臓が高鳴っていることを自覚した。そして、その先とは、仁が今まで体験したことがない、大人の階段を彼女と共に登ることを指していると思った。


「一応、形的には私達付き合っていると言うことになるわよね? 彼氏の家に行くと言うことはそういう覚悟も含めてだと思うわ」


(あー、私ったら何を言ってるのよ。こんなこと言ったら若い男の子なんだから、耐えられないかもしれない。そういうことになるのも覚悟してきたけど、これじゃ私の方から誘っているみたいだわ)


 頼子は言った後から、恥ずかしさが込み上がってしまった。男女の関係になるかもしれないという思いもあり、見られても良いように今回は上下同じ柄の下着を着ているが、その準備が本当に必要になるかは、相手は自立した大人ではなく、学生と言うこともあり未知数であった。


(月見里さんも僕を意識してくれているみたいだ。ここは男として態度で示さなきゃ)


 仁は顔を赤らめている頼子を見て、緊張で恥ずかしがっているものだと思い込んでいた。男として彼女の気持ちに応えられるように、リードしなければならないと考えていた。


「えっと、その……」


 そう考えたものの、仁は今まで女性経験がなく、初めて付き合ったのもソファーの隣に座っている頼子であった。ネットなどで仕入れた知識はあっても、実際に行動に移すとなれば別問題であった。


(兼田君を見ていると、問題は後回しにして、今は一緒に居たいって言う気持ちしか残らなくなってしまう)


 次の行動になかなか踏み出せない仁を見て、頼子はとても愛おしく感じ、一緒に居たいという気持ちが大きくなってしまった。


「今だけで良いから、仁君って呼んで良い?」

「えっ? それは構わないけど、それじゃ僕も音羽さんって」


(そうよね。仁君は私のことを音羽だと思ってるのね)


 頼子は仁から娘の名前で呼ばれたことで、現実に引き戻されてしまった。


「やっぱり、今のは無し。月見里さんのままで呼ばせてもらうよ」


 仁は音羽と呼んだ瞬間に、頼子の顔が曇ったことを見逃さなかった。即座に今までの呼び名を使用することを告げた。


(私の表情を見てすぐにフォローするなんて、ますます好きになってしまうわ)


「仁君、好きっ」

「あっ、んんっ」


 頼子は仁の心遣いが嬉しくなり、思わず唇にキスをしてしまった。


「月見里さん、僕もう耐えられない」

「そのまま私を押し倒して良いわよ」


 仁は頼子にキスをされて、何か心の中にあった鎖のようなものが外れた気持ちになった。頼子にそのまま進んで良いか尋ねると、頼子は拒むことをせず体の力を抜き仁に体を預ける態度を取った。


「大好きだ」

「私もよ」


 仁は頼子に抱きついたまま、ソファーの上に押し倒した。


「ただいまー。仁、帰ったわよ」

「「えっ!」」


 仁と頼子はそのまま男女の仲になろうとしたとき、突然リビングのドアが開き何者かが入ってきた。突然の来訪者に仁と頼子は驚いた声を上げてしまった。

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