第101話 おうちデート(その7)
「オレはお前のことが好きだ。結婚してくれ」
「はい、よろこんで」
若い男が指輪ケースを開き、中の指輪を見せながら女性にプロポーズをしている。
「いいわねぇ。こういうの」
「月見里さんはこういうのに憧れるの?」
仁と頼子はリビングのソファーに座りながら恋愛映画を見ていた。話も終盤に入り、主人公の男性がヒロインの女性に対しプロポーズをしているシーンになった。実は恋愛映画が好きな頼子は、その演技を食い入るように見ていた。
「ええ、やはり形で愛を表現するのって、古い考えなのかもしれないけど、私は良いと思うわ」
頼子の場合、前の夫からプロポーズを受けたとき、指輪も用意されず、籍だけ入れる形で式すら挙げていなかった。この時点で気が付けば良かったのだが、すでにこの時点で借金まみれになっていたことを知ったのは籍を入れてしばらくしてからあった。そのような事情もあり、最低限、将来のパートナーに対し、これからやっていけるという財力を見せる意味で、必要な儀式であると考えるようになっていた。
「愛してる」
「私もよ」
テレビの中の2人は、互いに抱き合い愛を囁いた後、口づけをおこなっていた。それからエンディングに入り、スタッフエンドロールが流れ始めた。
「それにしても、最近は凄いわね。レンタルショップに行かなくても気軽に映画が見られるようになるなんて時代も変わったわねぇ」
頼子は仁の家にあるテレビを見て驚いていた。以前はレンタルショップで借りて家で映画を見ていたが、時代が変わり、今では無料、有料を含めインターネット経由で好きな映画が自由に見られるようになっている。月見里家はインターネット環境などなく、テレビも存在しない。そのため頼子の中のテレビ環境と言えば前者であり、時代の変化に驚かされていた。
「さて、次は何を見ようか?」
「長時間の視聴は目に良くないわ。少し休憩しましょ。飲み物を用意してくるわね」
仁は次にどの作品を見るか頼子に尋ねたが、目の疲労のことを考え、頼子は休憩を提案し、飲み物の準備をするためソファーから離れてキッチンに向かった。
(僕なら何本も続けて見てしまうけど、月見里さんはそういうところが気遣えるんだよなぁ)
キッチンで作業をしている頼子の姿を見ながら、仁は彼女の気遣いに感心していた。
「お待たせ。冷たいもので良かったよね?」
「ありがとう。ちょうど喉が渇いたなって思ったところだったんだ」
それから少しして、2人分の飲み物が入ったコップを持った頼子が戻ってきた。頼子は仁の隣に触れ合う距離で座った。
「あっ、そう言えばカレーライスを作っているときに、後回しにしていたことがあったわね」
「そ、それって」
頼子は少し恥ずかしそうな表情を浮かべ、仁に対して何かを思い出させようとした。それを聞いた仁は、それが何を指しているかすぐに理解できた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます