第100話 おうちデート(その6)

「食洗機があるから、使い方がわからなかったら教えるよ」

「いえ、これくらいの量なら手洗いで対応できるから大丈夫よ」


 仁は食器洗いを始めようとした頼子に対し、食洗機の使用を促したが、機械を使用して洗うほどの量がなかったため、頼子はそれを断り、使い終わった食器を手洗いし始めた。


「洗い終わった食器はここに置いておくから、乾いたら戻しておいてくれると助かるわ」

「それくらいお安い御用だよ」


 頼子は洗い終わった食器を水切りラックに並べ、乾いた後で仁に対して片付けておくように伝えた。


「2人分の1食分だから片付けなんてすぐね。はい、これで最後。鍋に残ったカレーは小さい容器に移しておくわね。ご飯もまだ残っているけど、保温のままでもすぐに食べるのなら構わないのだけど、冷蔵、冷凍しておく方法もあるわよ?」

「とりあえず保温のままで良いよ」

「そう、わかったわ。それじゃ、カレーだけ移しておくわね」


 頼子は仁に確認を取ってから、残ったカレーを小さな鍋に移し替え、使用していた鍋を洗い始めた。


「よし、これで終わりね」

「ありがとう。なんか料理を始める前より綺麗になった気がする」


 食器洗いのついでに頼子はキッチンまわりの清掃も行っていた。そのため2人で料理を始める前よりも片付けられて綺麗になっていた。仁はそのことについて素直に頼子に礼を言った。


「今日も家で夕食の支度をしないといけないよね?」

「そうなるわね。本当はもっと長い時間を過ごしたいのだけど、私の家もいろいろあってゴメンなさい」

「家庭の事情なら仕方ないよ。とは言ったものの、これから何をして過ごそうかな」


 仁は頼子に帰る予定時刻を改めて尋ねた。頼子は音羽の夕食の支度をするため滞在できる時間が限られていたが、音羽もアルバイトから帰った後であっても、夕食くらいなら自分で用意できる。だが、仁との今の関係を知られたくないという頼子の思いから、1人で夕食を済ませておいてとは言えなかった。


「私は、兼田君と一緒に過ごせるのなら、何でもいいわよ。そうね。一緒にお風呂なんてどうかしら?」

「お、お、お風呂!」


 頼子からの突然の提案に仁は驚きの声を上げてしまった。


(月見里さんと一緒にお風呂)


 仁はその言葉を聞き、思わず頼子の体を上から下までなめ回すように見てしまった。服で隠れている部分が何となく想像で補完され、少しいけない気持ちになってしまった。


(ああ、兼田君が私を求めているような目で見てる。このままお風呂にゴーしたい気分だけど、親と子くらい年が離れているから、若いときのような肌のつやもないし、幻滅させてしまうかも)


 頼子は仁の視線に気が付き、自分の姿が見られていることを察した。だが、仁の思い浮かべているものと現実では、かけ離れているものが存在するため、頼子はそこで急ブレーキがかかってしまった。


「じょ、冗談よ。そういうのは、もう少し仲良くなってから、ねっ」

「そ、そ、そうだね」


 頼子は冗談だったように見せかけ、自分の気持ちを抑えつけた。仁もそれを聞いて安心したような、ガッカリしたような複雑な気分になっていた。

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