第99話 おうちデート(その5)
「「いただきます」」
ダイニングテーブルの上には2人分のカレーライスが用意され、仁と頼子は手を合わせてから食べることにした。食器を並べる際にどのように座るか考えたが、結局お互いの顔が見えるようにということで、2人は向かい合わせに座ることにした。
「辛さは私の基準で決めたけど、兼田君は辛くなかった?」
「大丈夫だよ。これくらい平気」
「それなら良かった」
頼子は食材を選ぶ際にカレーライスの辛さを仁に尋ねたが、頼子の判断で良いと伝えたため、自分の好みに合わせた辛さにしていた。と言っても頼子自身は辛党ではないため、辛さのレベルで言えば平均的なものであったが、辛いものが苦手な人からすると、そのレベルであっても辛く感じる人もいる。頼子は仁の言葉を聞き安心した表情を浮かべていた。
「こういう家庭的な料理を食べるのも久しぶりだよ」
「キッチンまわりを見た感じでは、最近あまり使われていないような気がするわね。外食ばかりだと栄養が偏るかもしれないわよ」
「うっ、肝に銘じておきます」
まるで母親のように言う頼子の言葉が、実母に言われているように感じ、仁は思わず日頃の食生活について考え直してしまった。
「と言っても、いきなり自炊は難しいかもしれないわね。そのときは私を呼んでくれたら、いくらでもお手伝いするわよ」
頼子は、仁だけに任せることはせず、必要であればいくらでも協力する姿勢を見せた。
「それにしてもこのカレーライス、とても美味しいよ。月見里さんって料理が凄く上手くて、将来一緒になるならこういう人が良いなって思うよ」
「上手いことを言うわね。でも、言われて悪い気はしないわ。私なんかで良ければ……いえ、な、何でも無いわ」
仁はこれからも頼子と一緒に居たい気持ちから言ったが、それを聞いた頼子は嬉しそうな表情をしたあと、急に暗い表情に変わった。
(これ以上隠すのは良くないのだけど、今の関係が崩れると思うと、なかなか言い出せないわ)
頼子は、これ以上、仁と関係を続けるには、本当のことを話し、理解を得なければならなかった。だが、それを言ったことで関係が崩れてしまうことが頼子にとって、とても辛いことであった。
「「ごちそうさまでした」」
そのあと頼子は考え込むような態度を取っていたため、仁は何か悩みごとがあるのだろうと思い、彼女から言い出すまで会話を控えていた。そのためそのあと2人はあまり会話をすることなく食事を続け、皿の上に盛られていたカレーライスはなくなってしまった。
「洗い物は私がするから、兼田君はテレビでも見ながらゆっくりしていて良いわよ」
「いや、僕も手伝うよ」
食べ終わったら皿を集めた頼子がそう言うと、仁は1人だけくつろげるような気持ちにはならず、他の食器の片付けに入った。
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