第98話 おうちデート(その4)
「ご飯が炊けたみたいね」
仁と頼子がカレーライスを作り始めてしばらくすると、予めお米をセットしていた炊飯器からご飯が炊き上がったお知らせが聞こえた。初めの方は操作方法に苦労していた頼子であったが、物覚えはとても良く、仁の説明を理解しているようであった。
「兼田君。中のご飯を混ぜてくれるかな?」
「えっ? 混ぜるの?」
「ええ、そうしないと炊きムラができてしまうの」
「へぇ、そうなんだ」
仁の家には炊飯器があるが、仁はふだんはあまり使用していないため、炊き上がってから混ぜずにそのまま放置していた。頼子に言わせるとそれは食感を損ねることになるらしい。仁はそれを聞き新たなことを学んだ気がした。
「あち、あちち」
「蓋を開けたら熱気が上がるから火傷に気をつけてねって、……遅かったわ」
頼子が注意する前に仁は炊飯器の蓋を開けてしまい、上がってきた蒸気に手が触れて熱い思いをしてしまった。
「あら、あら、大丈夫」
それに気が付いた頼子は仁の元に駆け寄り、赤くなった手を心配そうに見ていた。
「だっ、大丈夫だから。少し熱かっただけだよ」
「そう? 本当に大丈夫?」
頼子は仁の両手を優しく包み込むように持ち、上目づかいで尋ねてきた。
(かっ、かわいい)
仁は頼子の行動がとても可愛く思えてしまった。
「きゃっ」
「ごめん。凄く可愛く思えて」
思わず仁は頼子を抱き寄せてしまった。
「もう、揶揄わないでよ。でも少し嬉しい。あー、でも、今は鍋に火をかけているからお預けね。続きはあとでね」
頼子も少しその気になってしまったが、鍋に火をかけたままであることを思いだし、その誘惑に何とか抗った。
「完成ね」
「ああ、ほとんど僕は手伝っていない気がするけど、やり遂げたって実感が持てたよ。それに凄く良い匂いがして食欲をそそられる」
「2人で食べるには少し多めに作ったから、余ったらまた温めて食べてね」
仁と頼子の共同作業でカレーライスは完成した。今は頼子が盛り付けをしているところで、仁は鍋から漂ってくる匂いにお腹が鳴ってしまうほど、早く食べたいという気持ちになっていた。
「量は私の判断で決めたけど、少なかったかな?」
「うーん、今はお腹が空いているから、少し足りないかもしれないけど、おかわりするから大丈夫」
「そうね。まだまだたくさんあるから遠慮無く食べてね。って言ってもお金を出してくれたのは兼田君だけどね」
今回の食材購入費はすべて仁が出している。月見里家の金銭事情を知っているため、割り勘などと言う提案はする気がなかったが、買い物をしている最中、頼子も負担すると言い出したが、やんわりとお断りをしていた。
「作るのが大変なんだよ。だからお金のことは気にしなくて良いよ。きっと僕だけだったら作ることもない食べ物だよ」
仁は1人でこの家に住むようになり、このようなものを家で作ることになるとは思っていなかった。それを実現してくれた頼子に対しとても感謝していた。
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