第97話 おうちデート(その3)

「さすが一軒家と言うだけあって、キッチンも広いし設備が整っているわね」


 仁と頼子は家に入ってから、買ってきた食材を置くためにキッチンに向かった。仁の家は、ごく一般的なキッチンの設備であったが、ボロアパート暮らしの頼子にとっては別世界のように見えていた。


「使い方とか大丈夫?」

「えーっと、水回りは作業がしやすそうで良いわね。これってコンロよね? 真っ平らなテーブルに円が描かれているけど、ガスはどこから出るのかしら?」


 頼子はキッチンまわりを確認していると、コンロの形状が自分の知っているものとは異なることに気が付いた。


「あ、これ、IHだからガスは出ないよ」

「これが噂に聞くIHクッキングヒーターなのね。ごめんなさい。私、この使い方がわからないわ」

「それなら大丈夫。ガス式とあまり変わらないから教えてあげるよ」

「使うときになったらよろしく頼むわね」


 月見里家で使用しているコンロは昔からあるガス式で、つまみを回すタイプであるが、兼田家のコンロはボタンで操作する電気式のものであった為、形状が異なっていた。頼子は使い方がわからなかったので仁に助けを求めた。


「それじゃ、準備に取りかかりましょうか」

「そうだね。実はあまり料理って得意じゃないから、こうしてキッチンに立つのも久しぶりかもしれない」

「そうなのね。それじゃ、私が手取り足取りで教えてあげるわね」


 頼子はそう言って家から持ってきたエプロンを付けると、仕込み作業に取りかかった。



「兼田君、ジャガイモを洗って皮をむいてくれるかな?」

「わかったよ」


 基本的に仕込み作業は頼子主導で行われ、仁は頼子から頼まれた補佐的な作業をおこなっていた。


 トントントントントン


 頼子は包丁を片手に慣れた手つきでニンジンを切っていた。


「すごいね。流れるようにニンジンが切れてる」

「そう? 日頃から料理をしていたらこれくらい簡単よ」


 頼子の華麗な包丁さばきを見ていた仁が感心したように言うと、頼子は少し照れた表情を浮かべ作業を続けていた。


「お鍋に火を入れたいのだけど、お願いできるかな?」

「わかったよ。火力はどれくらい?」

「そうね。沸騰するまで中火くらいかな」

「了解」


 仁はカレーを煮込むために用意した水の入った鍋を置いてから、頼子の指定したとおり中火に設定してスイッチを入れた。


「火が出ないから不思議なものね。本当に熱くなっているのかしら?」

「月見里さん、触ったら火傷しちゃうよ」


 IHクッキングヒーターは火が出ないため、視覚的に火が出ているようには感じない。表示灯などで熱くなっていることはわかるが、手で触って確かめようとした頼子を仁は慌てて止めた。

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