第95話 おうちデート(その1)

 カラオケ交流会があった週は、そのあと複数回女子会が開催され、音羽の所持金は完全に無くなってしまった。それが切っ掛けになり、クラスで浮いた存在であった音羽は、わだかまりが解けてクラスの輪に入るようになった。そのようなことがあってから休日を迎え、気が付けば日曜日になっていた。



「カラオケ交流会があってから、月見里さんは他の女子と話すようになって、なかなか話しかけられなかったからなぁ。約束のこと忘れていなきゃ良いけど」


 仁は家から近いスーパーマーケットの前に立っていた。前回のデートの帰りに、この日は指定した場所で待ち合わせをして、仁の家で過ごす約束をしていた。だが、音羽は教室で他の女子と過ごすことが多くなり、約束のことを話せないまま週末を迎えてしまった。そのため約束を忘れていないか不安に思いながら、待ち合わせに指定した場所で頼子が到着するのを待っていた。


「お、ま、た、せっ」

「あっ、おはよう」

「うん、おはよ。1週間がとても長く感じたわ。さ、さ、食材が逃げてしまうからお店に入りましょ」

「いや、開店直後だから食材はすぐに無くならないよ」


 頼子は仁の姿を見つけると駆け足で寄ってきた。そして嬉しそうに腕を絡めてきた。仁は2日ぶりに彼女に会ったと思っていたが、頼子は1週間ぶりで会うのを楽しみにしていた為、とてもテンションが高くなっていた。


「それで、今日は何を買おうか?」

「そうねぇ。兼田君は何か食べたいものとかある? 私が作れるものだと良いのだけど、とりあえず言ってみて」


 スーパーマーケットに入った仁と頼子は、店内用の買い物カゴを1つ取り野菜売り場に進んでいった。そこで頼子は仁に何か食べ物のリクエストがないか尋ねてきた。


「そう聞かれると悩む。定番のカレーライスとかどうかな?」


 仁は突然の質問に対してどのように答えようか考えた。だが、凝った料理などその場で言えるわけもなく、定番メニューであるカレーライスを選択した。


「わかったわ。カレーね。そうなると、ニンジン、タマネギ、ジャガイモ……っと」


 仁のリクエストを聞いた頼子はその場で必要な食材を整理していった。


「これは少し痛みがあるわね。よし、これなら大丈夫ね」

「月見里さんって食材を選ぶときに、注意深く見ているんだね」

「それはそうよ。同じ値段なのだから、その中から少しでも状態が良いものを選ぶのは常識みたいなものよ」


 仁は前回、一緒に食材の買い物をしたときも思っていたが、頼子は食材を選ぶときにその状態をよく確かめてから買い物カゴに入れている。そのことが気になり仁は頼子に尋ねてみた。


「まだ学生なのに、そこまで考えて食材選びをするなんてすごいね」

「えっ? そ、そうね。が、学生でも考え方は人それぞれよ」


 仁の言葉を聞き、頼子は焦った表情を浮かべながら答えた。

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