第94話 音羽の交友関係

「おや?」


 翌朝、仁は学校に登校してから教室に入った。すると昨日までの雰囲気と少々異なる点に気が付いた。


「おはよう。月見里さん、小山内さん」

「おはよー、兼田クン」

「……おはよう」


 いつもなら1人ポツンと自分の席に座っている音羽であったが、この日は日花里と一緒に何か話しているようであった。音羽の顔は引きつっていたが、日花里は楽しそうな表情を浮かべていた。


「2人で何を話していたの?」

「えーっとねぇ、昨日の交流会が楽しかったね。みたいな話?」

「そうなの月見里さん?」


 仁は2人が何を話していたか気になり尋ねてみると、日花里が昨日の交流会の話をしていたと答えた。仁は確認の意味を込め、音羽にそれを尋ねてみた。


「ま、まあそういうところかな。と言っても私の知らない歌の話だったから、良くわからないんだけど」


 音羽は少し疲れた表情で答えた。


「月見里さんの歌って凄く上手かったでしょ。だから、最近話題の曲とか歌えるようになったら良いかなって話をしていたんだよ」

「なるほど。それは僕も聞いてみたいかも」

「だよねー。ほら、兼田クンも私と一緒のことを言ってるじゃない。何か歌えるように練習するべきだよ」


 仁も音羽の歌が聞いてみたいと思ったため、日花里の提案を支持した。2人から言われた音羽は、家庭の事情で音楽に触れる機会が少なく、新しい曲を覚えられる環境に乏しいため、困った表情を浮かべていた。


「まあ、それは、のちのち考えてもらうとして、昨日は月見里さんも、小山内さんもお疲れ様」

「……お疲れ様」

「お疲れ。凄く楽しかったね。他の参加者からの感想も聞いてみたけど、とても好評だったよ」


 仁が登校してくるまでに、日花里は昨日の感想を参加者達に聞いて回っていたようであった。総合して評価は上々であったらしく、企画した彼女の顔は嬉しそうな表情をしていた。それに対し音羽は、仁があまり触れて欲しくなかった話題を変えてくれたことに感謝していた。


「という訳で、月見里さん。今日の放課後は女子会行くよー。残念ながら兼田クンは今回参加できないからね」

「そ、そ、そんなこと急に言われても困るけど」

「大丈夫、大丈夫。痛くしないからね」


 どういう訳か、昨日の交流会が女子達の間で話題になり、参加しなかった者から不満の声が上がったらしく、その埋め合わせとして急遽、放課後に女子会と称した集まりが開催されることになった。部活動など特に事情がない限り女子は強制参加と言うことで話がまとまり、音羽も参加したくはなかったが、強制的にメンバーに組み込まれてしまった。この日の女子会は甘いスイーツを食べながら話をするというものであったが、当然のことながら参加費の自己負担が発生し、仁に返す予定であった8000円がさらに減っていくことになってしまった。

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