第75話 3回目のデート(その16)

(月見里さんは何を言おうとしていたのだろう)


 観覧車が動き出してから少し気まずい感じになり、結局降りるまでお互い会話を交わすことがなくなってしまった。そのため仁は頼子が何か言いそうになっていたことが気になっていたが、それ以上にお互いの唇が重なったことについて頭がいっぱいになり、その疑問もいつの間にか感じなくなっていた。


「そろそろ帰りましょうか」

「そうだね」


 最後のアトラクションも乗り終わり、閉園時間も迫っていたため頼子の方から帰ろうと言い出した。仁もまだこの場に居たい気持ちもあったが、閉園時間というどうすることもできないタイムリミットが迫っているため、遊園地から出る以外の選択肢は今のところ残されていなかった。


「あっ、そうだった。写真」

「忘れていたわ」


 どちらかというわけでもなく、2人の手は自然に結ばれた状態になり、出口に向かって歩いていたが、ふと、仁は入園したときに撮影した写真のことを思い出した。



「すみませーん。引き換えをお願いします」

「はーい。では、こちらの写真で間違えありませんね」


 仁はもっていた引換券を出口ゲートの前で係員に手渡した。すると台紙に綺麗に収められた仁と頼子のツーショット写真を見せられ、中身が合っているか確認してきた。


「ふふっ、兼田君の顔、引きつっているわね」

「初めての写真だったから緊張していたんだよっ」


 写真を見ると、緊張で仁の顔が引きつっていた。それに対し頼子は満面の笑みを浮かべていて、2人の表情は対照的であった。一緒に写真を確認していた頼子が笑いながら言うと、仁は恥ずかしさを打ち消すように言い返した。


「大丈夫です。問題ありません」

「かしこまりました。では、お写真は2枚分になります」

「「ありがとうございます」」


 仁と頼子はそれぞれ遊園地の封筒に入った写真を受け取った。


「またのご来園をお待ちしています」


 写真を受け取った場所のすぐそこには出口ゲートがあり、仁と頼子はスタッフの人達に見送られて遊園地から出た。


「それじゃ、帰りはタクシーで良いよね?」

「ええ、任せるわ」


 行きは金銭的なことを考えて電車で移動したが、あの混雑を再び味わいたくないという共通認識から、帰りはタクシーを利用することにした。2人は写真を鞄に入れた後、手を繋いだ状態でタクシー乗り場に移動した。


「確か今日も夕食の支度をするんだよね?」

「ええ、その予定よ。でも食材がないから買って帰る予定よ」

「それなら、行き先はお店が良さそうだね」

「ありがとう。そうして貰えると助かるわ」


 仁はタクシーを待つ間に、頼子に対しこの後の予定を尋ねた。この日もアルバイトに行っている音羽が帰宅する前に、夕食の支度をしなければならないため、頼子は食材を購入してから帰宅するつもりであった。そのことを仁に伝えるとタクシーの行き先は頼子がふだん利用しているスーパーマーケットに決定した。

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